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馬十の辻に風が吹く 第一章―5

「余は幸真千である。
 さきわうの幸に、 マガモの真、 ちとせあめの千と書く。
 あたらしい先生だな。 なんという名だ」
 八歳と聞いている。
 年からしても小柄だが、 中身もお子様らしい。

「真鴨に千歳飴ですか。 …… 何故に鴨 …………。
 私は 真咲と申します。
 真っ盛りの真に、 咲き誇るの咲と書きます」
 しまった。 説明しながら これでは完全に名前負けじゃないかと思った。
 今の姿は 地味な不細工眼鏡なのだ。
 もっと控え目にすればよかった。 少し反省した。

「良い名だ。
 『さきまち』と『まさき』、 似ているではないか。 うん」
 気に入ったのは そこか。

 内裏は広い。
 うっかり見過ごしてしまえば 通り過ぎてしまいそうな場所に、
 季節の花々が 無造作に咲き乱れている花園が出現した。
 なるほど 人が訪れないはずである。
 庭師も入っていないのか、 草も木も それぞれ好き勝手に枝や葉を伸ばしている。
 大きいだけで 何の趣向もない池まであった。

「真咲。 池には近づかぬほうがよいぞ。
 かっぱにひきずりこまれる」
 皇子が 偉そうに注意をした。

「河童(かっぱ)ですか」
「そうだ。
 余は あやうく しりこだまを抜かれるところであった。
 あるいは、 おぼれ死ぬところであった。
 この池は ものすごーく ふかい。
 余も 落ちるつもりはなかったのだが、
 かっぱに足をつかまれて、 ひっぱられてしまったのだ」
 では この池だったのだ。
 大きさも思っていたより大きい。

「こんなところに 深い池があっては、 危ないですね。
 埋めてしまうわけにはいかないのですか?」
「だめだ。
 かじやいくさで 火が出たときには、 だいじな物を この池になげこむのだ。
 そうすれば もえずにのこる。
 これはないしょなのだ。 だれにもいうなよ」

「あっ、 その為のものでしたか。 だから深い池なのですね。
 近くで見ておられた人が居て、 助けられたのですか」
「わからない。 かっぱが とちゅうで気をかえたのかもしれぬ。
 気がついたら、 ずぶぬれで 池の近くにたおれていたらしい」
 これは花澄ではない。
 誰かが 黙って助けたのだろうか。
 河童が急に気を変えたというのは、 さらによく解らない話だ。
 本当なら、 当の河童に 是非事情を聞いてみたいものだ。

「そうだわ。 あのあたりから 犬が飛び出してきたのです」
 桜子が指をさす先に、
 丈の高い草が 茫々(ぼうぼう)に生えている草叢(くさむら)があった。



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