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馬十の辻に風が吹く 第一章―4

 宮中に入って 三日が過ぎた。
 雑事を済ませ、 いよいよ教育係としての役目に就く。
 勉強の時間は 皇女と二人きりだ。

「先のお役目の方は、 大怪我をなさって退かれたとか、
 なにやら 大変なことが起こったようでございますね。
 皇女様がご無事で なによりでした」
 さりげなく話を切り出した。

「ええ、 本当に怖かったのよ。
 お庭に花がたくさん咲いたので見に行ったら、 突然大きな犬に襲われたのです。
 先生は 私をかばおうとして、 怪我をされました。
 躾(しつけ)のできていない犬で、 牙をむいたり よだれを垂らしたり、
 お行儀悪く襲ってきて 咬み殺されるかと思いました。
 助かって良かった。
 どうせ死ぬなら、 美しい死に方が良いもの。
 犬に咬み殺されるなんて嫌だわ」
 のんびりした話し方で、 全然危機感が感じられないが、
 さすがに 皇女は眉をひそめて言う。

「よくご無事で」
「駄目かと思った時に、 助けてくれた者がいるのです。
 とっさのことで 顔も見えなかったので、 いまだに誰だったのか判らないのです」
 もちろん花澄だ。

「そうだわ。 先生、 お花は好き?」
 急激な話題転換だ。
「はい。 この部屋にも きれいな花が 活(い)けてありますね」

「私は切り花よりも 地面に生えているのが好きです。
 そうだわ。 一緒に見に行きましょう。
 東のはずれに あまり見たことがないお花が たくさん咲いている庭があるのです。
 犬に襲われて以来 行っていませんでした。
 他には めったに見に行く人が居ませんし、
 せっかく咲いているお花を 誰も見ないのは、 お花がもったいないわ」

 部屋から見える庭は 上品にしつらえられて、
 内裏の庭にふさわしく 見ごたえがあるが、
 まだ幼いと言っていい桜子には かえって物足りないのだろう。

 背衛は事故ではなく、 事件の可能性が高いと言ったのだ。
 事件ならば、 被害者を伴っての現場検証ができる機会を見逃す手はない。
「是非、 拝見したいものです」

 真咲が答えたとたんに、
 桜子は すばやく立ち上がって いそいそと歩き出した。
 のんびりした話し方からは想像できない 素早い身のこなしだ。

 二人が外へ出ようとしていると、 パタパタと軽い足音が走ってきた。
「余(よ)もいくぞ。 東のにわ」
 元気いっぱいの男の子が 勝手についてきた。
 態度が思いっきりでかい。

 離れた所から
「殿下―。 何処にいらっしゃいますかー」という声が聞こえてきた。
「よろしいのですか」
 真咲が 声のする方を指差して聞いても、
 うんとうなずいて、 気にする様子もなく付いてくる。
 殿下と呼ばれているなら、 この子が第三皇子だろう。
 この際 まとめて面倒を見る良い機会になりそうだ。



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