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馬十の辻に風が吹く 第一章-3

 蛍原帝を援けた勇者は、 実は八人居た。
 天山の乱の後、 七人は 重臣として朝廷で高い地位を与えられたが、
 八人目の男、 馬十は固辞した。
 彼が得意としたのは、 情報を集めたり 裏の工作をしたりという、
 言わば 陰働(かげばたら)き。
 表立ってしまえば 役に立たない。
 蛍原帝は代わりに、 望みのものがあれば 何でも与えると約束した。
 馬十が所望したのは、 交通の要所であり、 都にも程近い『辻』であった。
 その場所で情報を集め、
 いざという時には 都を護る砦になろうというのが、 馬十が帝に返した約束だった。
 都を襲うとなれば、 辻は要の場所になる。
 事が起これば、 真神門が真先に動くと。

 二百年前に 馬十がした約束を、 これまで一族は守ってきた。
 真咲も その役目を担(にな)う時が来たのだ。
 姉の花澄は、 女官として すでに宮中に潜入している。
 鍛錬に明け暮れる日常は 終わりを告げた。
 いよいよ実践だ。
 果たせる自信は それなりにある。
 一族の使命を果たす任に就(つ)くことは、 やぶさかではない。
 それでも、 問題が二つばかりあった。

「皇女様の教育係なんて できるかしら。
 それと、 ちゃんと教育係に見えるのかしら。 私が……」

「桜子様は、 まだ十一歳であらせられる。
 真咲は 飛丸の教育係を 上手く果たしているではないか。 大丈夫だ」
 背衛は 気安く請け合うが、 どうも根拠がおかしい。
 確かに ビシビシとしごいた甲斐があって、 飛丸は力を付けてきている。
 しかし、 あんなので良いのだろうか。
 少し違う気がするのは 気のせいだろうか。

 真咲が 首をひねっている間に、
 部屋に控えていた母の阿久里(あぐり)と 長年屋敷に仕えてきた梅が、
 真咲の衣装替え…… もとい、 変装を手早く進めた。

 鍛錬の時にも着ている 動きやすい物の上に、
 うんざりするほど地味な色を重ね、
 悲しくなるほど地味な裳(も)を腰に巻く。
 髪も一つにまとめられ、 大人っぽくは見えるが、
 洒落っ気など 薬にしたくても見当たらない。
 ある意味 いつもの訓練着姿より酷い。
 いまどき これほど古風な姿をした若い女は見かけない。
 古風以前の問題のようでもある。
 お洒落三昧から 遥かに遠い。
 遠すぎる。

 最後の仕上げとばかりに手渡されたものを見て、 真咲はぎょっとした。
 珍しい物であることは確かだ。 めったに見ない。
 買えば 高価なものであることも知っている。
 しかし……、 金持ちの年寄が使っているところしか見たことがない。
 黒鼈甲(べっこう)に 二つの穴が開いており、
 驚くほど透明度の高い玻璃(はり)が 嵌(は)められている。
 縁には ひもも付いている。
 眼鏡だ。

「こんなものを着けたら、 ものすごく目立ってしまうのではないかしら。
 しかも、 ぜぇーたいに不細工に見える」
 あっけにとられる真咲に、 背衛は平然と答えた。
「だから良い。
 眼鏡を取って衣装を替えれば、 あっという間に別人になれる。
 眼鏡の縁で 黒子(ほくろ)も隠れる。
 若い女が掛けているのは珍しいから、 眼鏡しか印象に残らないだろう。
 誰も 真咲の素顔など覚えていまい。
 その衣装は 一瞬で着脱可能な、 我が一族の苦心の作だ。 最新式だぞ」
「うううっ」
 何が最新式なのやら、 真咲は唸るしかない。

 真咲の顔には 小さな黒子がある。
 左目からこぼれ落ちる涙の通り道、
 眼の下というか、 頬の上部ともいえるところに ぽつりとあるそれは、
 意外に印象に残りやすい。
 素顔を隠すには、 なるほど一石二鳥だ。
 仕方なく眼鏡をかけてみた。

 慣れないせいか 視界がうっとうしいが、
 度が入っていないので、 普通にものが見える。
「妙に似合うな」
「本当に、 ちゃんと口うるさい教育係に見えますよ」
 口々にほめられたようだが、 真咲は全然うれしくない。

「幸真千皇子は 桜子皇女に なついていらっしゃると聞く。
 よくご一緒にいらっしゃるというから、
 お二人の身辺には 充分に気を配って守るのだ。 頼んだぞ」

 背衛の眼は、 父親の眼から 当主の鋭いものに変わった。



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1932:管理人のみ閲覧できます by on 2014/01/18 at 14:40:11

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