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馬十の辻に風が吹く 第一章―2

 あの少年は 手当てを受けて、 無事に命を永らえた、
 と後日、 兄の太久郎から聞いた。
 通りかかった一行は、 熱密国から来た使者だったとか。
 あの事件以来、 他の呪はともかく、
 癒しの呪だけは 自信を持って唱えられるようになったのだ。
 あれからまもなく、 太久郎は 旅に出たきりまだ帰ってこない。
 随分たくましくなっていることだろう。

 物思いにふけっていたせいか、 気がつくと 飛丸が並びかけて、すぐ隣を走っている。
 知らず遅くなっていたようだ。 速度を一気に上げた。
「真咲姉、手加減してくれたんじゃないのかよう。 待ってくれよ」
「師匠とお呼び。 あまーい」

 その時、 朝だというのに 夜啼き鳥のさえずりが聞こえた。
「あっ、 父上が呼んでいるみたい」
 いつもと同じ一日が過ぎると思っていた。
 しかし、 屋敷に戻ってみると、 新たな展開が待っていたのだった。


「ええーっ!  私が宮中に上がるのですか。 わーっ、やったー! 
 花澄(かすみ)姉さまと交代ですか」
 真神門家の当主であり、 真咲の父でもある 背衛(そともり)に呼ばれて 部屋に行ってみれば、
 想いもよらない事を言われ、 はしゃいでしまう。
 何しろ宮中である。
 豪華な衣装なんかも着ちゃって、
 キラキラしい装飾品なんかもめいっぱいつけて、
 お洒落三昧が出来るはずだ と期待が膨らんだ。

 一応 領主の娘という事にはなっているものの、
 ゴマ粒みたいな領地を治める 弱小領主である。
 祝い事でもなければ、 本格的なお洒落をする機会さえ無い。
 仕事で宮中に上がるとなれば、 おおっぴらに着飾れるはずだ。

「否、 交代ではない。 臨時の追加じゃ。
 先頃、 内裏の庭に野犬が入り込み、
 四の姫 桜子皇女(さくらこのひめみこ)が 危うい目に遭われた。
 花澄が なんとか間に合ってお救いし、 事なきを得たが、
 皇女の教育係だった方が 庇(かば)おうとして咬(か)まれ、 大怪我を負われた。
 少し前には、 第三皇子の 幸真千皇子(さきまちのみこ)が、
 池の深みに落ちて 溺(おぼ)れかけられた。
 お二人とも やんちゃなお年頃だ。 目を離すと 何をなされるか判らぬ。
 そこでだ。 替わりの教育係を探している。
 真咲がなるよう手配した。
 これ以上危ない目に遭われぬよう、 しっかりと警護をするように」

「なあんだ、 子守ですか」
 少しがっかりしたが、 宮中でお洒落ができるなら、 この際子守でも良い。
 贅沢は言えない、 と思いなおした。
 しかも、 補助としてなら いくらか経験を積んでいるが、
 今回は、 真咲が 初めて任される仕事なのだ。

「我が真神門の仕事である。 ただの子守ではない。
 お二人に良からぬことが起きつつある。
 野犬に襲われた事も、 池に落ちたことも 事故ではなく、 事件の可能性がある」
 背衛は厳しい顔で、 付け足した。

 国を守り、 帝を守るのが 一族の仕事なのだ。
 背衛が『真神門の仕事』と言うからには、 危険を伴う極秘任務ということだ。



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