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馬十の辻に風が吹く 第一章-1

 真咲は いつものように朝の鍛錬を終えて、 帰途に着いた。
 後ろから飛丸(とびまる)が必死に付いてくるのを 目の端にとらえて、
 がんばっているな とほくそえむ。

 飛丸は 十一歳の腕白盛りで、 まだまだ頼りないが、
 近頃 少しはやる気を見せるようになった。
 真咲も十六歳になり、 教えられるばかりだった立場から、
 若い子を指導することを命じられるようになった。

 そういえば、 四年前に騒動があったのはこの近くだった。
 なるべく思い出さないようにしていたのに、 うっかり思い出してしまった。
 すると 何だか叫びたくなる。
 一応 真神門家の姫だというのに、
 あの時も今と同じ、 動きやすいだけで 男も女も無いような訓練着だった。
 おまけに 太久郎にしごかれた後とあって、
 髪も乱れ、 汚れきってボロボロだった。
 そんな姿を 美少年に見られたのが悔しかった。
 胸の奥に ちくりとした痛みが走る。
 放っておくと むずむずしてくる。


 あの日、 惨劇の後に 馬車を連(つら)ねて街道をやってきた一行があった。
 その中に、 血の臭いに敏感な人間がいたらしい。
 風向きもあったろう。
 進路を変えて立ち止まった気配の後、 二人の男が様子を探りにやって来た。

 一心に呪を唱えていた真咲を、 太久郎が物陰に引っ張り込んだ。
 不意を突かれて 叫びそうになった口を塞がれた。
 何しろ馬車である。
 真央土国には まだ一台しかないはずだ。
 その馬車は、 目の前で転倒して 無残な姿をさらしている。
 それがもう一台、 いや、 音から判断しても、 一台だけではなかった。

 剣を構えて 慎重に進んできた二人の男たちは、 見慣れぬ姿をしていた。
 惨状を目にし、 驚きつつも用心深く辺りをうかがっていたが、
 襲撃者は立ち去ったと判断したようだ。
 剣をおさめ、 そこここに転がる死体を 検(あらた)めてゆく。

 やがて 少年を見つけて近づいた。
「まだ息がある。 手当をすれば助かるだろう」
 少年をかついで戻ってゆくのを、 真咲はとっさに身を隠しながら追いかけた。

 街道には 異国風の装飾がほどこされた馬車と、
 大きな馬に乗った 護衛らしき騎馬の男たちが待っており、
 偵察にきた二人が 状況を報告していた。
 馬車に乗っていた 威厳を感じさせる男の指図(さしず)で、
 少年は ていねいに扱われ、 馬車に乗せられた。
 中には 真咲と同じくらいの年ごろの 美しく着飾った少女も見え、
 心配そうな顔で見ている。 助けてくれそうだ。
 真咲は ほっとした気持ちと、 残念な気持ちの両方を抱え、
 去って行く一行を 見送ったのだった。
 
 戻ってみると、
 少年が倒れていた場所に 光るものがあるのを見つけて手に取った。
 掌に収まるほどの大きさで、 凝ったつくりの刀子(とうす)だ。
 紙を切ったり、 書き損じた個所を削ったりする文房具だが、
 身分の高い男性は きらびやかにしつらえて、 帯の飾りにして持ち歩く。
 真咲は拾ったが、 少年に返す手立てもなく、 そういえば 未だに手元にある。
 見てしまうと やっぱり胸の中がむずかゆくなるので、
 秘密の小箱の奥深くに しまいこんだままだ。

 思い出していると、
 幾人もの敵に囲まれ、 血まみれになりながらも 迎え撃っていた少年の姿が
 不意に浮かび上がって焦る。
 あれっ、 そうか。
 あれは 十二歳だった真咲の幼い初恋だったのかもしれない。
 ………… 気がつかなかったなあ。



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コメント
1924: by キョウ頭 on 2014/01/13 at 20:44:47

血生臭い事件だったというのに、ナニ甘酸っぱい事を考えてらっしゃるのでしょうw。
真咲特有の感性でしょうか

1925:Re: キョウ頭様 by しのぶもじずり on 2014/01/13 at 23:54:49 (コメント編集)

暢気すぎましたかねえ。
12歳の子がたまたま出くわした 見知らぬ一家の事件。
平和に暮らしている一族ではないし、
四年もたてば、血生臭い記憶ではあっても、それなりに落ち着くんじゃないかと思ったのですが、
不自然だったでしょうか。う~む。
考えてみます。
ありがとうございました。

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