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馬十の辻に風が吹く 序章-3

 真神門一族の秘密の一つは、 いくつかの呪を操ることにある。
 朝の鍛錬も その為のものだ。
 口先だけで呪を唱(とな)えようとしても 効果は薄い。
 心身ともに鍛(きた)える修行が必要だった。
 真咲も けが)や病気を治す 癒(いや)しの呪を知っていた。
 練習中で まだ自信はないが、 何もしないよりはましだろう。

 目をこらして 動くものを探す。
 分からない。
 こうしている間にも 手遅れになるかという焦りが、 かえって感覚を鈍らせているのか、
 どれも 立派な死体に見えてしまう。
 落ち着いて 一人一人確かめるしかない、 と恐る恐る転がっている体に近付けば、
 また音がした。
 左のほうだ。
 真咲は 今度こそ 少しの気配も見逃すまいと慎重に進んだ。

 ぐふっ。 大きな音がした。
 間違いようが無い。
 最後まで立っていた あの少年だ。
 背中から生えた矢羽が かすかに震えている。
 駆け寄ってみれば、 思ったほど血が流れていない。
 矢は 急所をかろうじて外れている。
 豪華な衣類の為、 背から胸に刺さっているように見えていたが、 肩に近い。
 身なりからして 石動家の人間と見て間違いはなさそうだ。

 しかし、 少年は 矢傷以外にも深手を負っている。
 放っておいては 到底助かりそうに無い。
 それより何より、 目の前で繰り広げられた殺戮(さつりく)を見たせいか、
 すでに 生きる気力を失っているように見えた。
 無理もない。
 身内の人間が、 皆殺しに遭(あ)ったのだ。
 手当てだけでは足りない。
 助けるためには、 気力を取り戻さなくてはならない と真咲は気づいた。

 小さな鳥は、 襲われた衝撃だけでも簡単に死んでしまうが、
 人間は 案外しぶとい。
 生きようとする気持ちが、 命を 繋(つな)ぎとめることがあるのだ。

 ぐったりした少年の耳元で、 真咲は 力を込めて呼びかけた。
 「生きろ!  生きなさい! 
 奴らの思い通りに死んで どうする。
 生き延びることこそが、 一番の復讐。
 死んでいった者たちへの供養(くよう)。
 生きなさい!  あなたは生きるのよ」

 その言葉は 呪ではない。
 だが、 必死に思いを込めた呼びかけには 言霊(ことだま)が宿る。

〈生きなさい。 あなたは生きるのよ〉
 意識も命も手放そうとしていた少年の 魂の端切れを、
 真咲の言葉が かろうじてつかみ取り、 手繰り寄せた。

 少年は うっすらと目を開き、
 ほんの少しずつ その目に力を宿し始めた。
 そのとき初めて、 真咲は 少年がびっくりするほど美しいことに気づいて、
 思わず うっすらと頬(ほほ)を染めてしまった。

「見とれている場合じゃないわ」
 あわてて気を取り直し、 唇をきりりと引き結んだ真咲は、
 矢を引き抜いた。
 少年が 声にならぬ悲鳴を押し殺す。
 楽な姿勢になるように横たえると、 呪を唱え始めた。

 ふっくらした唇から 呪と共に薄紅色をした靄(もや)のようなものが出て、
 少年の体に纏(まと)いつくように流れ出す。
 ひときわ濃い紅色が 深く傷ついた場所にたどり着き、
 傷口から沁みこんでゆく。
 まだまだ自信は無いが、 今までで 一番上手くいっている感じがする。
 一心に呪を唱えた。


 深追いを諦めた太久郎が、 賊を取り逃がした口惜しさを滲ませて戻り、
 少年の状態を確かめようと 屈(かが)みこんだ時、
 不思議な事に、
 何故か 表の街道に、 遠くから近付いてくる馬車の音が聞こえてきた。



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コメント
1920: by lime on 2014/01/12 at 11:52:56 (コメント編集)

真咲には、そんな力もあったのですね。
都を陰で守る一族という設定も、とても興味深いです。
でも、その美形の少年にちょっとドキッとする真咲ちゃんが、とてもかわいい。
守るついでに、素敵な恋などあったらいいのにね^^

1921:Re: lime様 by しのぶもじずり on 2014/01/12 at 17:40:18 (コメント編集)

> 真咲には、そんな力もあったのですね。
そーなんですよ。あんまり得意じゃないみたいですけどね。
だから、呪を使ってるのは、この場面くらいしかない(笑)

素敵な恋ですかあ~。
limeさんと同じで(すいません。一緒にしちゃいました)、得意分野ではないのです。
どうなりますことやら(^^ゞ

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