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馬十の辻に風が吹く 序章-1

 真央土(まおと)国 のほぼ中央にある都、 蛍原京(ほとはらきょう)から 南に走る街道がある。
 少し進めば、 東西を結ぶ古来からの大きな街道と交差する。
 その辻は いつの頃からか 馬十(ばじゅう)の辻と呼ばれていた。
 都と各地方を行き来する人と物のほとんどが、 その辻を通ることになる。

 馬十の辻を含む ささやかな一帯を領地とする一族があった。
 真神門(まかみかど)一族である。
 辻の名前の由来と、 真神門一族について 詳しく知るものはほとんどいない。


 「兄様、 待って」
 と、 喉もとまで出掛かった言葉を、 真咲(まさき)は かろうじて飲み込んだ。
 代わりのように、 さらに歯を食いしばる。
 夜明けを告げる鳥の声が わずかに聞こえ始めたばかりの静けさの中、
 二つの影が 風のようにひた走っていた。

 前を らくらくと疾駆するのは、
 真咲の長兄であり、 真神門家の跡継ぎになる太久郎(たくろう)だ。
 妹の真咲にとっては 憧(あこが)れであり、 今は師匠でもある。
 いつもどおりに 朝の鍛錬(たんれん)に向かう途中だ。
 人目につかない高低のある林の中を、 獣にも負けぬほどの速さで走りぬける

 太久郎は、 食いついてくる真咲を感じて、 満足げな笑みを漏らした。
 大分手加減がいらなくなった。
 たいしたものだ。
 太久郎が 逞(たくま)しい十八歳の偉丈夫(いじょうふ)であるのに引き換え、
 真咲が 十二歳の娘であることを考えれば 賞賛に値する。

 一陣の風が吹く。
 街道に 早立ちの旅人や荷が動き出すには 早すぎる頃合だというのに、
 太久郎の耳は 近づいてくる馬の足音をとらえた。
 急ぎながらも耳をそばだてて 様子を探る。
 馬の足音ばかりではない。
 ガラガラと喧しい車輪の音が重なっている。
 馬車のようだ。

 貴人が乗るのは 人が担(かつ)ぐ輿(こし)か、 牛が引く牛車(ぎっしゃ)である。
 荷車を引くのも 人か牛である。
 今 この国で 馬車を持っているのはただ一人。
 新しい物好きの右大臣だけだ。

 近年、 西に位置する辺境の属国 熱密(あつみつ)で、
 大型の馬を産出することが明らかになった。
 熱密では 人も荷も馬で運ぶという。
 右大臣は 熱密からよく慣れた馬車馬と馬車を手に入れ、 乗り回しているらしい。

 二人が走る林は、 太久郎にとっては文字通り自分の家の庭だ。
 音を聞けば、 方角や距離から おおよその状況を推察できる。
 馬十の辻から 南に向かおうとしている。
 やはり 馬車は朴家(ぼっけ)の一つ、 右大臣を務める石動原(いするぎはら)のものだろう。


 二百年ほど前、 天山の乱が起こり、
 国中が戦火に見舞われた大混乱の折、
 時の帝の末皇子、 末余皇子(すえあまりのみこ)の下(もと)に、
 七人の勇士が集まり、 争いを鎮(しず)めたと伝えられている。

 子沢山(こだくさん)の帝が 面倒になったのか、
 あんまりな名前を付けられた皇子が
 その七人を どこからどうやって集めたのかは、 いまだによく分かっていないが、
 おかげで 国は とにかく治(おさ)まった。
 勇士たちは 『朴家』と呼ばれて 特別待遇を受け、
 その後も 朝廷で重要な地位を占(し)めることになった。
 その血筋の家柄は めでたく続いている。 石動原はその一つだ。

 混乱を収めるどころか 増幅させたとしか思えない無能な帝は、
 戦火のうちに 多すぎる兄皇子たちと共に 身罷(みまか)ってしまい、
 唯一生き残った息子から
 『杜撰帝(ずさんてい)』という 見もふたもない諡(おくりな)を付けられることになった。

 一見豪快に見えた末余皇子も、 実は根に持っていたらしい。
 新しく蛍原京を開き、 帝になった事から、 諡を蛍原帝という。



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