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薬種狩り 十九の3

《駄狗はいないぞ。 一人で やるのか》
 天狗は心配した。

「草楽堂さんが言っていた。
 薬種狩りになりたい若い衆が居るらしい。
 一緒に旅をして、 父さんに教わった事を伝える」
《今度は 衣都が師匠になるか。 駄狗よりも才があるしの。
 良い薬種狩りになるだろうが、 穂田里と玲は 寂しがるじゃろうて》

「才がある。 おれが? 
 不気味草の蜜を使いきって、 肝心な時に役に立たなかったぞ」
《え?  そういうことだったのか。
 まあ、 あれは仕方がない。 道標は必要だった。
 それはともかく、 まんまと天狗苺を持ち帰って 役目を果たしたじゃないか。
 絶滅していた青緑茸も見つけたし、
 スカだったとはいえ 東原の悪魔にも出会った。
 駄狗にも出来なかったことを やってのけたじゃろ》

「運が良かっただけだ」
《運が良いのが、 一番の才じゃ。
 丈夫で長生きすれば、 名人どころか 伝説の薬種狩りになるかもしれん。
 わしも付いておるしのう》
 天狗が胸を反らす。

「嬉しいけど、 忙しいんじゃないのか。
 ちょいちょい野暮用で居なくなるし」
《何を言うか。 今回、 野暮用は一度だけじゃ。
 そうだ。 忘れんうちに教えておこう。
 もしも また天狗苺を失った時は、 忘れられた村の裂け目を 村とは反対方向に進め。
 深い森のどん詰まりに 滝がある。
 大地震の時に出来たのかもしれん。
 百五十年にも満たない若い滝じゃ。 その滝の流れに 霊力の柱を通してきた。
 何年かすれば、 周りに天狗苺が生えるはずじゃ。
 東原の悪魔の巣のど真ん中じゃから、 踏み込む人間はおるまい。
 開発しようとする酔狂者も出て来ん。 よほど困ったら行ってみろ》

「そんなことができるのに、
 騒動になる前に、 天狗森と父さんを助けられなかったのか?」
「駄狗と同じことを言う。
 あいつは、 青緑茸を守れなかったのか と睨みよった。
 天狗にも、 出来ることと出来ない事がある。
 しかしのう。 人間は、 時に 出来ない事をしでかすことがある。
 面白いのう」

 衣都は軽く聞き流して、 森を出た。

 泥に汚れた残雪と ぬかるんだ道がある。
 すぐ近くまで 新しい春が来ている。
 衣都の瞳には 晴れやかな笑みが浮かぶ。
 足取りも軽く、 衣都は 天狗森を後にした。




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