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薬種狩り 十九の2

《衣都、 ここにおったのか》
 風に乗って現れた天狗が、 衣都の肩に舞い降りた。

《知っておるか。
 都中が 人を喰らう『死者の森』の噂で もちきりじゃぞ。
 言いふらしたのか》
「否、 おれらを運んでくれた騎馬兵の兄さんたちの仕業しわざだ。
 おれらは何も言ってない」

《何ものう。
 べっぴんさんが言うなとでも言ったか。 ふむふむ、 それが良かろう。
 安全だと知れたら、
 巨大お化け屋敷計画とか 人喰い遊園地計画とかが出て来んとも限らん。
 黙っておれば 誰にも分かるまい。
 変化に気付くとすれば 森番の八福くらいのものじゃが、
 あやつの話をまともに聞く人間はおらん。
 人喰いバオバにさえ相手にされんかった男じゃ》

「何故 森番は喰われなかったんだ?  近付いたはずなのに」
《人間より西瓜に近いからじゃろ。
 叩けば ポカンと良い音がしそうじゃ》
 それこそ バオバに聞かなきゃ分からない。

《衣都も落ち着いたようじゃの。 これからどうするか決めたのか》
 前を向く衣都には見えていないが、 天狗は にっこりと微笑んだ。
「うん、 丈夫で長生きする!」
 どきっぱりと 力いっぱいの返答に、 天狗がよろけた。

《至極まっとうな計画ではあるが、
 もう少し細かい計画とか 見通しとかは無いのか。
 駄狗の稼ぎが ほとんどそっくり残っているじゃろうから
 暮らしには困らんじゃろうし、
 都で 贅沢三昧ぜいたくざんまいの暮らしを 面白おかしく楽しむとか、
 草楽堂を乗っ取るとか、
 薬師を目指すとか、 何か無いのか》

 衣都は、 木の実を埋めた場所を もう一度目で確かめると、 くるりと踵を返した。
 森の外に向かって 歩き出す。
「薬種狩りをする」

 冬枯病が一段落した時に、
 帝から ねぎらいの御詞みことばがあるからと呼ばれて、
 大内裏に出かけたが、
 御前に出たのは 玲と穂田里だけで、 衣都は典薬寮で待たされた。
 ただ待っているだけの衣都に声をかけたのは 典薬助だった。

「あなたが 噂のいっちゃんね。 あの二人から残らず話を聞いたわ。
 お父上は気の毒だった。
 まったく男どもは、 何かというと力で押し切ろうとするんだから、
 嫌になっちゃうわね。
 人を殺しても、 物事がややこしくなりこそすれ、
 解決なんかしやしないというのに。
 これからは いっちゃんが頼りよ。 期待しているわ。
 あなたの貴重な経験を生かし、 役に立つ形にして伝えて頂戴。
 ガンバ!」

 迫力のあるおばさんに いきなりげきを飛ばされ、
 勢いで うなずいてしまった衣都であった。
 つい 一緒になって 握りこぶしを突き上げたりもしてしまった。
 成り行きで、 なにやら使命感みたいなものが芽生えた。

 そうだ、 薬種狩りをしよう! 
 そう思った。

 典薬助に言われた事と 結論が微妙にずれている気がしないでもなかったが、
 衣都は 経験を伝える他の手段を知らなかった。



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