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薬種狩り 十九の1

 天狗森にも 雪が積もっていた。
 この冬は いつもより雪が多い。
 森の地面は すっかり白く覆われて、 まだ眠っているように静かだ。

 その静けさを破って、
 ザクザクと軽快に進む足音が、 迷うことなく森の奥に向かった。

 一足ごとに、 ザラメのようにゆるんだ雪が 足元で崩れる。
 もうすぐ 冬が終わる。
 森は こっそりと目を覚ましている。
 ところどころに ぽつりぽつりと見える黒い斑点は、 姿を現した小さな地面だ。
 注意して見れば、 そこから 草木の新芽が顔を覗かせているはずだ。
 目覚めた生命いのちが 立ちあがろうとしている。
 残雪を解かすのは、 太陽の光と暖かい風ばかりではない。
 小さな生命の営みも また、 雪を解かす。

 知っている。 生命は温かい。

 それらを ぴょんと跳び越えて、
 足音は 小さな空き地に止まった。
 衣都だ。


 三人は間に合った。
 領主屋敷に着くやいなや、
 玲は ここぞとばかり 大上段に勅書を振りかざし、
 偉そうな態度全開で 最速の移動手段を手に入れた。
 すなわち、 領主自慢の駿馬しゅんめと 屈強な乗り手たちである。

 行く手を塞ごうとする間抜けなやからは、
 野盗だろうと 事情を知らない地方の役人だろうと、
 かまわず 穂田里が蹴散らして突き進んだ。

 問答無用で運ばれた天狗苺を使い、
 都の薬師が総動員して 冬枯病を撃退した。
 ぎりぎりだった為、 予後が少しばかり長引いたが、
 患者たちは 命を長らえることができた。

 例年にないどか雪に 右往左往し、
 慣れない雪かきに明け暮れる日々に 文句を言いながらも、
 冬をなんとかやり過ごした都人に、 ようやく春が訪れようとしていた。


 天狗森の小さな空き地に 衣都は立ち止った。
 そこは、 駄狗が 無念の最期を遂げた場所だった。
 森のヌシが 根まですっかり掘り起こされた跡に 何故か雪は無く、
 ぽっかりと 地面があらわになっている。
 霊力の余韻だろうか。

 衣都は屈みこんで 湿った土を両手で掘り起こし、 小さな穴を空けた。
 手近な雪を一掴みして 土汚れをすすぎ、
 懐から取り出したのは、
 死者の森で 幻の駄狗から手渡された 木の実だ。

 幻が消えても 衣都の掌に木の実は残り、
 大切に扱ったわけでもないのに 森の中で消えてしまわなかった為、
 なんとなく都まで持ち帰っては見たものの、 捨てるに捨てられず、
 かといって、 持っていても そのうち干からびるか腐るかするに違いなく、
 思い付いて 天狗森に埋めることにしたのだ。
 それが 今回の仕事の締めくくりにふさわしく思われた。

 天狗森開発は結局のところ、 さたやみになった。
 当初の予定通りに歓楽街を作っても、
 今回の騒ぎが 都人の記憶にある限り、
 のんきに楽しめないだろう と発案者も諦めた。

 雪解け水が木の実を育て、 やがて 天狗森に一本の木が増えるだろう。
 そうしたら、 寂しくなった時には 会いに来よう。

 衣都は 丁寧に土をかけて、 立ち上がった。
 ひゅるりと風が吹いた。



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