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薬種狩り 十八の6

「起きろ!  月の雫花だ!」
 穂田里が指すそこには、
 優美な弧を描いた細長い花びらを重なり合わせ、
 月の光を受けて 白銀に輝いている 世にも美しい花が咲いていた。
 華やかというよりも むしろ慎ましく、 ひっそりとして、
 月光と共に 地上に舞い降りた 精霊のようだった。
 目が離せない。

 衣都は 眠っていなかった。
 皮袋をつかんで 走り寄った衣都を見て、 穂田里が叫ぶ。
「ちょっとこら待て! 
 気持ち悪い色に染める気か。 不老不死の薬など、 後にしろ」
「不老長寿だ。 全然違う」
 衣都は答えたが、 花の前で ぴたりと動きを止めた。
 初めて見る月の雫花に心を奪われ、 身動きすら忘れて見入った。

 穂田里が近づき、 玲も加わった。
 三人に囲まれて、 おとぎの国の花が咲いていた。

 月の光が 花弁のそこかしこではじけ、
 転がり、
 この世ならぬ 音の無い光の調べを奏でる。
 世界は とても美しい。
 世界は あるがままで美しい。
 花に降り注ぐ月の光は、 そう歌って まばたきを誘う。

 三人は耐えた。
 瞬きすれば、 眼をそらせば、 月の雫花は消える。

 まず、 玲が 別れを惜しんで眼をつむった。
 次に、 衣都が 我慢できずに瞬きした。
 穂田里も ついに諦めた。
 おぼろげな月明かりが 草叢くさむらを照らしているだけになった。

 かすかに漂うのは、
 月の雫花の香りか、 それとも 夢の残り香。

《人とは面白いものよのう。
 貴重な薬種より、 夢のひと時を選んだか》


 死者の森を一歩出た途端、 肌を刺す木枯らしが襲ってきた。
 空を見上げれば、 昨日の晴天が嘘のように 鈍色にびいろにくすんでいる。
「急ごう。 間に合うと良いが」
 穂田里の声に焦りがにじむ。
「この分じゃ、 今年の雪は早そうだ」
 都は遠い。
 衣都が悔しそうに唇を噛んだ。

「領主の所に行くぞ。 これこそ 勅書の使いどころだ。
 領主の軍に 僕たちと天狗苺を都まで送らせよう。
 恐れ多くも、 僕たちは勅使だ」
 俺様全開の玲が叫んだ。




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