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薬種狩り 十八の4

 あとは 帰途につくだけだ。
 森で一夜を明かした三人は、 森を突っ切る事にした。
 危険なのは森ではなかったと分かれば、 周囲を大回りするより近い。
 食料も調達できる。

「しかし、 道に迷ったりしないのか」
 玲の指摘通り、 問題は そこにある。
「ほれ、 あっちだ」
 穂田里の声につられて振り向けば、
 人間ほどの大きさを持つ、 えのころ草に似たものが、
 穂先を ふよふよ動かして招いていた。
 招き猫じゃらしである。

「こんなに大きかったのか。
 これなら 穂田里でも見落とさないはずだ」
「玲、 見えるのか」
「まあな」
 招き猫じゃらしは 森の奥に誘っている。
 真っ黒焦げになったバオバの残骸に背を向けて、
 天狗苺を摘みながら進んできた方角に 引き返した。
 招き猫じゃらしは、
 しんがりの玲が通りすぎるか過ぎないかというところで ポンと消えた。

 招き猫じゃらしが姿を消しても、 衣都の案内に迷いは無い。
 高木の幹に印があった。
 どす黒い血のりと 腐った臓物を 混ぜてなすり付けたような色が、
 何種類かの形を作って 残されていた。
「衣都、 いつものしるしと違うな」

「消える。
 落ちた葉も、 切り取った茎も 、刻んだ傷も 半日経たずに消える」
 死者の森で初めての夜を過ごした朝、
 梅の木に結んだ葛の蔓が消えているのに驚いた衣都は、
 手近の草で いくつか試してみた。
 籠に入れた草や 腰に下げた草は いつの間にか消えた。
 残ったのは 布に包んだ草と 袋に入れておいた草だ。
 理由など知らないが、 いつもの道標は使えない。
 さらに、 天狗苺をむき出しにしては運べない。
 きっと消えてしまう。

 天狗森の地面は 積もった落ち葉でふかふかだった。
 この森の地面は 手入れの良い畑のように、 しっかりした土だ。
 落ち葉が積もった形跡が 全く無い。

『天狗森とは 何かしら大事な事が違っている』
 と 穂田里が言ったのは この事だったのだ。

「なるほど。
 それにしても、 このひどい色は何だ。 他に無かったのか」
 玲の文句が復活した。

「不気味草の蜜だ。 何でも染められて、 色が落ちない」
 衣都は 皮の小袋を掲げて見せた。
「何でもなのか。
 ははあん、 だから 月の雫花も染められるわけだ」
「天狗様にも そう教えてもらった」
 ずんずんと進みながら そんな会話をしていると、
 玲が 小さく舌打ちした。



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