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赤瑪瑙奇譚 第五章――4



 ノミ川砦で腹をすかせていた 孤児のイヒカは、
 カムライの計らいにより、 城の調理場の 使い走りをしていた。

 床掃除やら 荷物運びやら のはしたな仕事ばかりで、
 もちろん 王様がなにを食べているかも 覗かせてもらえない。
 残り物ばかりの食事では、 目標の 「お腹いっぱい」 には程遠いが、 飢える心配は無くなった。
 何より、 自分が食べる為だけではなく、 多少とも誰かの役に立っているのがうれしい。
 自分にできることを見つけては 楽しく働いていたら、
 大人たちが 少しずつ いろんなことを 教えてくれるようになっていた。
 名前も覚えられて、 ますます重宝に こき使われている。

「イヒカ、 注文しておいた大鍋が 届いてないんだ。 ひとっ走りして催促して来い。
 出来てるようだったら 持って帰って来い。 代金は 城の会計に回ってくるから、 受け取るだけでいい。
 夕方までには帰って来いよ」
 ということは、 急がなくてもいい という意味だ。

 近頃は、 こうやって たまに息抜きをさせてくれようとする。
 何も言わないと、 イヒカは 全速力で行って 全速力で帰ってくるからだ。
 そう言われても、 イヒカが遅くまで帰らないことは 無い。
 一人で ぶらぶらするよりも、 みんなに こき使われているほうが 楽しいからだ。


 言いつけどおり 店に着くと、 大鍋は 出来上がっていた。
 布に包んで背負い、 歩き出した目の前を、 覆面の人物が 通り過ぎた。

「あっ、 ユン姉ちゃん」
 助けてもらったおかげで、 今はとても楽しく暮らしている と報告したい。
 もう一度、 ちゃんと お礼も言いたい。
 だが、 イヒカの声が届かなかったのか、 走るように どんどん遠ざかって行く。
 重い鍋を背負って、 必死に追いかけた。

 やっと追いついて、 息を切らせながら 袖をつかむと、
「何よ、 あんた。 あっちにお行き、 しっしっ」
 違った。 ユン姉ちゃんじゃない。
 でも どうしてそっくりな恰好をしているんだろう。
 あれっ、 ここは何処だ。 迷ったみたいだった。

 いつも お使いに行く店以外には 出歩くことが無いから、
 走っているうちに 知らない場所に 来てしまい、 分からなくなったのだ。
 あたりを見回すと、 二つほど先の通りに カムライの姿が見えた。
 殿下の後を付いていけば お城にたどり着くかもしれないと、 安易な思い込みで歩き出した。

 ところが、 周りの風景が寂しくなっていく。
 町外れのようだった。

 気がつくと、 周りには 戦火の跡が残ったまま、 片付けられもせずにある残骸が いくつか立ち並んでいた。
 雑草が生い茂り、 それらの隙間を埋めようとしているばかりか、
 焼け落ちた建物の間からも 容赦なく伸びている。
 かろうじて家の形をしている物も、 何時崩れ落ちても不思議はないほどに 痛んでいた。

 それらの奥に 一軒だけ 焼け残っている 随分と寂れた小屋があった。
 そこに カムライが入って行くのが 見える。
 間違いに気づいた。

 がっかりして 誰かに城へ行く道を聞こうとしたが、 人通りが全く無かった。
 畏れ多いが、 あの小屋に行って 殿下に聞くしかない。
 恩人だし、 気さくな殿下だから、 まあいいか、 と再び歩き出そうとした時、
 小屋の影から 男が出てきた。
 扉の中を覗いて、 ニッといやな感じの笑みを浮かべる。

 イヒカは 隠れた。
 あの男は 見たことがある。 砦で 追いかけてきた男たちの一人だ。
 これは変だ。

 遠回りして 小屋の後ろに回り、 板壁の隙間から覗いてみた。
 誰もいない。

 荒れ果てた小屋の中には、 不相応な新しい床が見えるだけで、 誰もいないばかりか 何も無かった。

 カムライ殿下は 何処に行ったのだろう。
 何がどうなっているのか、 全っ然分からない。
 誰かに相談しなきゃ、 と思ったその時、 後から 頭をぽんと叩かれた。


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コメント
125: by ポール・ブリッツ on 2012/06/06 at 16:11:51 (コメント編集)

最後の一文、どきっとしました。

敵が出るにしろ味方が来るにしろ、やはりこうでなくっちゃね~(^^)

127:Re: ポール・ブリッツ様 by しのぶもじずり on 2012/06/06 at 17:02:41

あざーっす。

どこで切るかは毎度悩みます。
上手くいっているのでしょうか。

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