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クロウ日記 四

「私専用の下官を 雇いたいと思う。
一人ぼっちは寂しい」
 執務室に現われ、 ナユタを呼びつけたクロウは、 こう切り出した。

「かしこまりました。 早速 手配をいたしましょう」
 内心では、 自分から 下官も召使も遠ざけたくせに 今更何を、 と思いつつも、
 気まぐれな王子をうまく操れる人物を、 頭の中で 物色し始めた。

「いや、 自分で探す。 退屈なのだ。 しばらく留守にしても かまわないだろうか」
 これまでも 居るのか居ないのか 分からない状態だったのだ。
 これも、 今更な話だった。

「はい、 ご不在を埋め合わせるよう、 私どもが 精一杯努力いたします。
お心おきなく どうぞ。
月初めだけは、 前月の報告とその月の予定を ご確認いただきたいので、
お顔をお見せいただければ 有難く存じます」
 要するに、居なくても 一向に差し支えない という意味だ。

「では、 後のことは よろしく頼む」
 どうせ 好き勝手にやるんだろう、 という意味である。

 翌日、 宮中からも都からも クロウの姿が消えたと知って、 さすがに ナユタは慌てた。

 どういう手段で下官を探すつもりか 知らなかったが、
 まさか いきなり都を出るとまでは 思っていなかったのだ。
 さらに 護衛を命じられた者が 誰もいないと知り、
 月初めになっても現われなかった時の 言い訳を考え始めた。
 変人とは聞いていたが、 ここまで無謀な行動に出るとは 思っていなかったのだ。
 やっかいなお飾りを 押し付けられたものだ。
 だが、 やりようはあるだろう。
 変人ぶりを利用すればいい。 使い方次第 というわけだ。



 マホロバ王国の都 ウケラの西北に 小さな里村がある。
 ゆっくり歩けば 二日ほどでウケラに行くことが出来る。
 冬には 山おろしの風が強く、 起伏の多い土地は 作物を作るのに苦労が多い。
 広い国土からすれば 豆粒ほどの領地ではあるが、
 代々の貧乏領主が 工夫をしながら真面目に統治してきた甲斐あって、
 領民は 穏やかな暮らしをしていた。
 都から近い距離にありながら、 正真正銘ド田舎である。

「よーし、 ナギは読み書きがよく出来るようになった。
えらいぞ。 あとは 算術をもう少し 頑張ろうな」
 村の子どもたちを集めて 勉強を教えているのは、 領主の息子カケル。
 二十四歳になるが、 未だに独り身である。
 昨年まで 宮廷官吏として将来を嘱望されていたが、 故あって 都落ちしていた。
 故郷で 冷や飯を食う身である。

「ああああ、 算術は 苦手なんだ」
 しかめっ面のナギに、 他の子どもたちが 笑う。
 ここまで小さい領地では、
 領主の若君といえども 領民と分け隔てのある暮らしをしている訳ではない。
 子どもたちも 臆することなく懐いていた。

「計算が出来れば、 大人になって 暮らしや仕事に役に立つ。 だがそれだけでは ないぞ。
物事の筋道を立てて考える時にも きっと役に立つ。 案外面白いのだ」
「あたしは好きだ。 面白い」
「ほう、 アマメはよく分かってきたな。 その調子だ。
ナギも 分かるところからでいい。 頑張ろう」
 情けない顔のナギに、 また みんなが笑う。

 そのとき、 遠くから 蹄(ひづめ)の音が 近づいてきた。
 そのあたりでは、 馬は荷を運ぶもの と思っている。
 乗って走らせる者は めったにいない。
 近づいてくる音は、 明らかに 荷車を引いていない。
 子どもたちは 興味を引かれて 騒然となった。 勉強どころではない。

「今日はここまでにしよう。
何処の誰が 馬を駆けさせているのか 知らないが、 近くの者ではないだろう。
みんな 気をつけなさい」
 子どもたちに 注意を与えて返したが、
 まさか その馬が 自分のところに来るとは 思っても見なかった カケルであった。

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コメント
1:コメントありがとうございます by hikokichi on 2012/04/17 at 21:41:14

どーも読書のブログのhikokichiです。
コメントありがとうございました。
ファンタジーだけじゃないんですね。
十三階段はもともと殿堂入り予定だったんで内緒にしておいてください笑
おじさんなせいか横書きは読みづらいですね。

2:これからが楽しみです by いつき on 2012/04/17 at 23:06:56 (コメント編集)

こんにちは。いつきと申します。
「クロウ」と「カケル」を主役にして物語は進むのでしょうか。
ふたりの交錯するさまが、楽しみです。

3:こんにちは by lime on 2012/04/18 at 14:53:36 (コメント編集)

クロウ、これから何をするつもりなのかな?
彼の行動が興味深いです。

今回出てきた先生、カケルも、主要メンバーになるんでしょうか。続きを楽しみにしています。^^

4:nikokichi様 by しのぶもじずり on 2012/04/19 at 15:05:52 (コメント編集)

ごめんなさい。すでにばらしてしまいました。
今度は非表示にしましょうか。
横書きについては、私も同じです。

5:いつき様 by しのぶもじずり on 2012/04/19 at 15:09:45 (コメント編集)

正解です。短い話なので、複雑な人間関係にはならないかも。

6:lime様 by しのぶもじずり on 2012/04/19 at 15:17:03 (コメント編集)

コメントありがとうございます。
コメの返事を書く という事が念頭に浮かびませんでした。
いろいろと初体験で 皆様には失礼を重ねています。
生温かい目で見てくださるとうれしいです。

1715:久しぶりにこちらに by 楓良新 on 2013/10/27 at 20:30:37 (コメント編集)

>「計算が出来れば、 大人になって 暮らしや仕事に役に立つ。 だがそれだけでは ないぞ。
物事の筋道を立てて考える時にも きっと役に立つ。 案外面白いのだ」
この台詞。まさにその通りだと思います。計算が得意な人って物事をうまく組み立てるのが得意みたいですね。

それは小説を書く時もそうです。プロットを立てて書いていく。
自分は計算苦手だから、プロット立てても結局、おかしな方向に進んでしまいます(笑)。

いつも遅読ですいません。

ところでコメントは鍵なしの方がいいですか?自分はたまに鍵をしてコメントする事があるんですが、私も色んなブロガーさんと知り合って、鍵コメだと、返信コメントをやりにくいと言う方もいますし、それも理解できます。
そういう事もあり、最近はこういった確認はとるようにしています。

1717:Re: 久しぶりにこちらに by しのぶもじずり on 2013/10/27 at 22:07:42 (コメント編集)

楓良新様、いらっしゃいませ。

作中で、偉そうに言っているのはカケル君です。
私は計算が苦手かも。
プロットもなかなか思うようにはいきません。

お好きなところからお好きなペースでどうぞ。
読んで頂くだけでうれしいです。

鍵コメの場合は、内緒話と理解して、お返事を書かないことがあります。
内緒話でなければ、鍵コメではないほうが、お返事しやすいです。

ありがとうございました。



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