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薬種狩り 十七の3

 穂田里を探して 木々の間を歩いていた衣都の前に、 駄狗が現れた。
 ずっとそうだったように、 ぶっきらぼうに促す。
「来い」

 赤い実をつけた七竈ななかまどを曲がり、
 盗人萩ぬすびとはぎが混じる草叢を踏み分けて進む。
 此処は『死者の森』だ。
 生きているなら、 駄狗は盗人萩を避ける。
 種が衣類にくっ付いて 面倒だからだ。

 衣都は恐れることなく、 後を追った。
「悪かったな。 おまえを連れて歩いたのは、 俺のわがままだ」
 照れたように言った駄狗は、 足を止めて 空を見上げた。

「すまんかった。
 女の子を どうやって育てたらいいのか、 さっぱり分からなかったんだ。
 災難だと思ってくれ」
 衣都は 首を横に振った。
 違う。 謝って欲しくなんかない。

「おまえは良くやった。
 すっかり一人前だ。 俺には心残りは無い。
 これからは 好きに生きろ。 やりたいようにしろ。
 俺の望みは たった一つしかない。
 衣都、 丈夫で長生きしろ」

 衣都の手を取って、 木の実を一粒ポイと乗せ、
「ちぇっ、 最後まで 気の利いた事が言えなくて悪いな」
 と呟いた。
 そうして 駄狗は背中を向けた。
 これでお別れだ というように 軽く片手を上げ、 遠ざかって行く。

 見送る衣都は 思った。
 大事な事を 何も伝えていない。

 駄狗は 確かに死んだ。
 遠ざかる後ろ姿は、 森が見せる幻だ。
 そうと知りながら、 言いたい言葉があった。
 後ろ姿は どんどん遠くなる。
 もうすぐ見えなくなるだろう。

 口に出さなくても 伝わると思っていた。
 違うのかもしれない。
 駄狗に謝らせたまま見送りたくない。
 想いは言葉にして、 声に乗せて 届けなくては伝わらない。
「父さま、 楽しかったよ。 …… ありがとう」
 衣都の声が終わる前に、 駄狗の姿が見えなくなった。

 まだ やることが残っている。
 幻を見送るだけでは終われない。
 駄狗の望みを叶え、 心残りなくあの世に行けるように、
 衣都の弔いをするのだ。

 東原の悪魔は間違いだったと知った時、 衣都は ようやく気が付いた。
 東原の悪魔を仕留めることが夢だ といつも口にしていたが、
 実際に 駄狗が命を懸けて守ろうとしたのは 天狗苺だ。
 どこかの たった一人の不老不死ではなく、
 どこにでも居る大勢を 病から救う事に、 迷うことなく命を懸けた。

 どんなことがあっても、 天狗苺を無事に持ち帰る。
 『死者の森』で消えるわけにはいかない。



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コメント
1776: by lime on 2013/11/24 at 03:04:04 (コメント編集)

3人に前にそれぞれ、思い出の人が蘇りましたね。
妖魔がたぶらかすのかな?と思っていましたが、本当に在りし日の姿だったのですね。
これが何か、3人に影響を与えるのでしょうか。
バラバラに行動したら、危ないよ~。って気がする。

1779:Re: lime様 by しのぶもじずり on 2013/11/24 at 17:14:16 (コメント編集)

妖魔じゃないのです。
なんなのかは、いずれ分かります。
もしも分かりにくかったら言ってください。

> バラバラに行動したら、危ないよ~。って気がする。

そう感じてくださるlimeさんは、うれしい読者様です。
ここまで、散々『死者の森』を脅かしてきたつもりなので、
不安を感じて頂けると、作者は「よしよし」とか思っています。
あざーっす!

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