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薬種狩り 十七の2

 いつまでたっても 穂田里は戻って来ない。
 迷子鈴も鳴らない。

「探してくる。 ここに居ろ」
 衣都が穂田里を追って、 木陰に消えた。

 玲は 取り残された。
 あまり 愉快な気分ではない。
 多くの人間を飲み込んだ 『死者の森』なのだ。
 植生を無視した 尋常ならざる光景が 目の前にある。

 しかも、 気がつけば、
 白樺の幹に寄り添うようにして立つ 華やかな女人まで居た。
 森の住人だろうか。
 人間が 森の中で跡形もなく消えたと考えるよりは、
 居残って 住み付いたと考えた方が納得はいく。
 木の実も果物も野草も、 薬草さえ ふんだんに取り揃っている。
 衣都が食料を捨ててしまっても、
 贅沢さえ言わなければ 困ることが無かったほどだ。
 意外に快適かもしれない。

 相手は女人である。
 怯えている様子もない。
 話をしてみようと近づいた。
 どこかで会った気がする。
 そのはずだ。 鏡に映った自分の姿に似ている。

「大きくなりましたね、 玲。 私の美しい息子」
 幼い時に失ってしまった母の面影が 瞬時によみがえった。
 まさしくその人が、 そこに居た。
 忘れていた。
 思い出しもしなかった。
 それなのに、 不覚にも 涙が一筋頬を伝った。

 顔を見られたくなくて 目をそらせば、 馬酔木あしびの横に老人が居た。
 驚いて見回せば、 芋の葉影に 別の老人が居る。
 去鳥茨さるとりいばらの後ろに、
 小柄だが逞しい体躯の男が、 泥に汚れた手に、 棒のようなものを持って立っている。
 全員が ひたと玲を見つめていた。
 こんな状況は初めてだ。

「困った子ね。 母親に挨拶も出来ないのかしら」
 鋭く細められた眼に、 憎しみの色を見たと感じるのは 気のせいだろうか。
 否。
「男の子のくせに、 何故 私よりも美しいの。 許せない。
 おまえが居なければ、
 誰もかれもが 私を憧れの眼差しで見つめ、 ため息をついたものだった。
 この美しさを存分に褒め称えてくれた。
 それなのに、
 玲のことは まぶしい光を見てしまったかのように、 目をそらした。
 褒め称える事を恐れるかのように 言葉を途切らせた。
 そんなの嫌だわ。
 私が一番でなくてはね。
 本当に親不幸な子ね。 近づかないで頂戴。 腹が立つわ」

 そうだった。
 そういう人だった。
 抑え込んできた心の傷が、 ざくりと口を開けた。




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