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薬種狩り 十七の1

 しきみの陰で 用を済ませた穂田里に、 鋭い声が掛かった。

「何をしておる。 さっさと付いて来んか。 急げ!」
 穂田里は従った。
 知っている声だ。
 その声には逆らえない。 条件反射で動いてしまった。
 前を走る人影に遅れまいと 必死に駆けた。
 それも悲しいかな 条件反射だ。

 やっと人影が立ち止って 振り向く。
「この軟弱者めがあ!  武官になりそこねおって」
 祖父だ。
 幼い頃から厳しくしごかれていたから、
 逆らおうなどということは 初めから頭に無い。

 怒鳴られて 首をすくめた穂田里を見て、 祖父は小言を続けた。
「兄たちを見習え。 おまえは つくづく軟弱でいかん。
 細かい事は気にするな。 くよくよ考える間に まず動け。
 男は度胸だ。 行動力だ。 腕力だ。
 わんぱくでも良い。 逞しく育て!」

 いや、 充分に育っていると思うが、 口には出せない。
 言ったら、 また怒られる。

 兄たちは 武門の家にふさわしく、 元気いっぱいな わんぱく坊主で、
 祖父の自慢の種だった。
 それに引き換え、
 今では想像もできないが、 穂田里は おとなしい子供だったのだ。
 慎重な性格で、 臆病だったともいえる。

 だからと言って、 祖父が嫌っていたのではない事は分かっている。
 心配だったのだ。
 心配だからこそ 熱心に手を掛けたとさえ思っている。
 おかげで、 すっかり 大雑把な男が出来上がってしまった。
 方向音痴は 祖父のせいかもしれないと、 この時気が付いた。

 穂田里は 充分に育った。 もう子どもではない。
 だから、 ふと思う。
 はたして 慎重な性格は 短所なのだろうか。
 衣都は 案内役として 慎重に旅を進めてきた。

 臆病は いけない事なのだろうか。
 玲は 無理をするのが嫌いだ。
 危険な事は 大嫌いだ。

 しかし、 この二人が居たおかげで、 無事に 天狗苺を手に入れる事が出来た。
 自分ひとりだったら、 むやみに暴れて、 色々な事を台無しにして、
 迷子になって 終わっていただろう。

「じいちゃん……」
 意を決して、 口を開いた。
 それなのに 肝心な事が言いだせない。
 様々な想いが去来して こんがらかり、 言葉にまとまらなかった。

 それでも、 はっきりしている事が一つだけある。

 都を出発する時、 自分自身に約束したのだ。
 この手で 玲と衣都を守り抜くと。
 二人と一緒に 天狗苺を持って、 無事に都に帰るのだと。

 約束は、 果し終わってはいない。
 ここは、 まだ 『死者の森』だ。



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