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薬種狩り 十六の4

 更に二日後、
 擬宝珠ぎぼうしを掻き分けた先に、
 紫がかった夏枯草うるきしかないのを見て がっかりした穂田里が、
 一息つこうと腰をのばして 顔を上げた時、
 視界の中を、 ふわふわひゅるりと漂ってくる物を捉えた。

「おお、 『風吹きかずら』だ」
 風吹き蔓は、 真珠のように淡い光沢を持った白い実をいくつも付けて、
 ゆったりと流れていた。
 時折 光の加減か、 その実が 虹色の輝きに染まる。
 うっとりと眺めているうちに遠ざかり、 木陰に消えた。
 そこに 玲が居た。

「見つけたぞ」
 数本の天狗苺を振りかざす。
 籠に放り込もうとしたのを衣都が止め、 布袋を渡した。
「袋に入れろ」
「籠では駄目なのか?」
「駄目だ。 袋の口をしっかり縛れ」

 衣都は 食料を入れてきた袋から すっかり中身を捨て、
 穂田里の空籠に放り入れた。
「天狗苺は 必ず袋に入れろ」
「分かったけど、 食いもんはどうするんだよう」
「なんとかなる。 おれは道案内で 薬種狩りだ」
「分かった」
 専門家は理論だけではなく、 経験則で物を言う。
 玲は従った。


 それからは 次々と見つけることができ、
 十日以上もかかって、 三人の袋は それぞれ八分目が天狗苺で満たされた。
「そろそろ都に戻ろう」
 六畳ほどに広がる 平たい大石の上に荷を下ろし、 玲が提案した。

 ここ数日、 急に気温が下がってきている。
 秋の終わりを知らせていた。
 他の二人も荷を下ろし、 空を見上げた。

 梢の切れ目から、 バオバの巨木が のしかかるように 間近に聳えているのが見える。
 反対側から入ったから、 ほとんど森を横断した事になる。
「そうだな。 一休みしたら森を出よう。
 俺、 ちょっと小便してくる」
 手槍だけを手に 歩いて行く穂田里に、 二人は 行儀よく背を向けて頷いた。

 不思議な森だが、 身の危険を感じるような異常は起こっていない。
 何故 多くの人間が この森で消えたのか、 さっぱり解らなかった。
 大石に腰を掛けて、 しばらく待った。
 穂田里が戻った気配が無い。
 ずいぶん長い用足しだ と不審に思い、 思い切って振り向いたが、
 穂田里の姿が どこにも見えない。

 少しずつしか進めなかった事もあるが、
 森に踏み込んでから、 迷子名人が 一度もはぐれることなく来ていたのだ。
 二人は油断していた。



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