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薬種狩り 十六の2

 天狗苺があったとしても、 探し当てるのは大変だ。
 いちいち 掻き分けなくてはならない。
 ざっと眺めただけでは、 何処に何があるのか見当がつかない。

 いつもは 無駄に陽気な穂田里も、 やけにおとなしい。
 そうは言っても 探さなくてはならない。
 その為に はるばるとやって来たのだ。
 三人は 黙々と下草を掻き分けた。
 しっかりとした地面に わざわざ植えたかのように生えているから、 探しにくくはない。

 しかし あまりに植物の種類が多すぎて、 作業は遅々として進まず、
 森に早い夕暮れが迫っても、 はかどった気が全然しない。
 一大決心で来たのに、
 どんよりとした疲労感が残っただけで、 見通しさえつかなかった。
 地面を這いずりまわるには、 森は意地悪なほどに広く思われた。

「後は明日にしよう。 疲れた」
 いつも通りの玲の台詞だったが、
 今度ばかりは 穂田里も文句を言わなかった。

 射しこんできた夕日の色に包まれた森で、 衣都は 周囲を見回した。
 野営の場所を決めなくてはならない。
 逞しい杉に 木通あけびつるが寄り添っている。
 椎の木に 烏瓜が身をゆだねている。
 人間が休める場所も いくらでもありそうだった。

 森全体からすれば、 まだほんのとば口だが、
 進むにつれて 生命は濃くなってゆくばかりだ。
 松がある。
 花の時期ではないが、 梅に 桜に 藤、菖蒲や 牡丹もあれば、 花を付けた萩もある。
 すすきがあるかと思えば、 菊が咲き、 紅葉が色鮮やかに燃えている。
 柳に蛙が跳びつき、 箪笥たんすが作れそうな 立派な桐もある。
 オイチョカブでも コイコイでも出来そうだ。

 衣都が ふと動きを止めて、 一点をじっと見つめた。
 あまりにでたらめな森の様子に、
 本日の意地は売り切れました というていの玲は、
 歩き始めた衣都を ぼんやりと目で追った。

 衣都が 何も無い空間に、 裏返した革袋を差し伸べたかと思うと、
 やおら、 むんずと何かをつかんだ。
 そこには、 どくどくと脈打つ内臓の塊のようなものが 忽然と現れ、
 鮮血のような 赤い液体が滴り落ちていた。

 気が付くと、 いつの間にか、
 さっきは何も無かった空間に 気味の悪いものが見えた。
 きもとか きもとか 腸に似たものを寄せ集めたようなものが、
 夕陽に染まって 血にまみれたようにも見える。
 肉色の茎に支えられて、 丁度 人間の腹の高さに浮かんでいる。
 突如、全体が ぐにゅりと蠢(うごめ)いた。

 玲は 「うげっ」と 思わず声を上げた。
「いっちゃん、 それは何だ」
 穂田里は 吐きそうな顔だ。
不気味草ぶきみそう
「まんまだな。 それも植物なのか」

「天狗森のおとぎ話に 一度だけ出てくる」
 玲が さらりと指摘した。
「俺のことを散々馬鹿にしたくせに、 玲の方が詳しいじゃないか」
「知っている事と信じる事は別だ。
 月の雫花をとどめておける 唯一の物が不気味草らしい。
 衣都、 手に持っている心の臓に似ている物が 花芯なのか」 
 衣都が頷いて、 革袋に納めた。

「天狗森と同じ植物があるという事は、
 天狗苺も大いに期待できるという事だ。
 やったな」
 穂田里が 少し元気を取り戻した。

《おい、 わしの言った事を信じておらんかったのか》
「天ちゃんが 霊気に満ち満ちていると言ったからには そうなのだろう。
 しかし、 天狗森とは 何かしら大事な事が違っている。
 実は、 天狗苺があるかは半信半疑だった」
 穂田里が、 珍しいことに、 首をひねって考えている。
《ほほう、 大事な事とは何じゃ》
「分からん。 だが、確かに違っている。
 もういい。 見つければ良いんだ。 ありそうな気がしてきた」
 衣都も小首を傾げたが、 やはり分からなかった。
 くずの蔓を引きちぎり、 梅の枝に結ぶと、 野営の支度にとりかかった。




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