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薬種狩り 十六の1

 度々やって来れる場所ではない。
 天狗苺を見つけたら、 出来る限り たくさん採って帰りたい。

 衣都は 自前で薬草を入れる袋と背負子を持参しているが、
 穂田里と玲は 籠を調達する事にした。
 籠を背負った玲の姿が 全く似合っていないが、 準備はできた。


 そんな二人から少し離れて、 衣都は声を潜めた。
「天狗様。 頼みがある」
《今度は何じゃ》
 衣都の頼み事を聞いた天狗は 逡巡した。
《うむう、 それで良いのか》
「おれは大丈夫。 やり遂げる。 今度こそ 父さんの弔いをする」

 身支度を終えた玲は、 覚悟を決めたのか、 いつもと変わらない。
 が、 穂田里は 宿を出てから様子がおかしい。
 すっかり無口になっている。
 いよいよ 『死者の森』に向かうという時になって、
 やっと口を開いた言葉が 「どうしよう」だった。

「おしゃべりいっちゃんは楽しそうだし、
 謙虚な玲は 大歓迎だが、
 俺、 腰ぬけになったら どうしよう。
 こんなに男前なのに、 きっとモテなくなる」
「僕は真理に対して、 いつでも謙虚だ。
 わけの分からない事を言うな。
 ………… 安心しろ。
 腰ぬけになっても 友人でいてやる」
「……うん……」
 わりと簡単な男だった。


 三人は 出発した。
 町に一番近い目印を目指す。
 背の高い岩だ。
 町を外れれば、
 ポツリポツリと貧弱な立ち木と低木がかたまる藪の他は、 色あせた野草の原である。
 そこを踏み分けて進めば 『死者の森』に行きつく。

 目当ての岩に着き、 一歩踏み出せば、
 一瞬のうちに 空気が変わった。

「うわあ、 何だこりゃ」
 目の前には、 枝ばかりが目立つ山躑躅つつじ
 足元には、 姫射干ひめしゃがが細長い葉を弓型に茂らせている。
 すぐり、 紫陽花、 山査子さんざしもあれば、
 真っ赤な光を集めて 一枚一枚こしらえたような紅葉の若木が 揺れている。
 うるしの葉も 負けていない。

 木々の間には、
 竜胆りんどう紫苑しおん女郎花おみなえしのように、
 鮮やかに花をつけているものの他にも、 虎杖いたどりやら 犬蓼いぬたでからペンペン草まで、
 様々な色や形の草が 見分けられないほど雑多に茂っていた。
 岩陰には 何種類もの羊歯しだが、 それぞれの緑を競っており、
 目につく範囲だけでも 数えきれないほど多種多様な植物で 埋もれていた。
 まるで 植物の博覧会だ。

 …… ありえない。
 こんなへんてこりんな森は、 誰も見た事が無い。
 賑やか過ぎる。
 これでは 『死者の森』ではなく
 『生命いのちの森』だ。




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