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薬種狩り 十五の2

「で、 ほとんど戻って来ないという事は、
 森から無事に戻った者も居るのだな。 違うか」
 玲は 冷静に話を戻した。

「あ、 はい。
 確かに ごくごくわずかながら 戻った方がいらっしゃいましたが、
 無事に というわけでは全くございません。
 恐ろしいことに、 まるで別人のように すっかり様子が変わってしまわれました」
 番頭は 痛ましそうに眉をひそめ、
 寒気を追い払うかのように ふるりと身を震わせた。

 古くから『死者の森』と言われているが、
 謂れは不明であり、 いつ頃から その名が付いたのかも定かではない。
 大昔から 近づいてはならぬ禁忌の森と伝えられていた。
 そう言い置いて、 番頭は説明を続けた。


「曾祖父が若い頃のことでございます。
 まだ この辺りが ちっぽけな村でしかなかった頃、
 ご領主の姫様が 隣の領主様に嫁がれました。
 めでたくお世継ぎの若君もお生まれになったある日、
 ご実家で 大きな祝い事が催されることになりましたとか。
 奥方様は 若君をお連れになって、
 その席に向かわれるべく この地をお通りになられました。

 その時、 他国から流れてきた盗賊の一味が お行列を襲ったのでございます。
 全く見境のない連中でして、
 領内の者ならば 盗賊と雖も お行列を襲うような事はございますまいに、
 まったく 運が悪かったとしか申せません。
 ご家来衆が迎え撃って 盗賊どもと戦っているさなか、
 乱闘から お身を隠そうとなさって、
 奥方様と若君は 森に入ってしまわれたのでございました。
 盗賊を打ち払ったご家来が探しても 見つからず、
 ご実家に連絡に走ったお一人以外が 後を追って森に入られました。

 それから十日余り後の事、
 皆が諦めかけていた頃になって、
 何処からともなく、 奥方様と若君が お姿をお見せになりましたが、
 それはもう、 ひどい有様だったとか。
 奥方様と若君と判るまで、 たいそうな手間がかかった と聞いております。
 後を追ったご家来衆は、 ただのお一人も 戻っては来られませんでした。

 その時の出来事がきっかけになり、 それまでは地元の人間しか知らなかった森が
 『人を喰らう森』と 近隣にも噂が駆けめぐりました。
 肝試しやら 度胸試しやらといって、
 腕に覚えの者たちが やって来るようになったのでございます。

 そんな連中から 戻ってきたのは、 知っている限り たったの二人でございます。
 それも やはり別人の如くに変わり果てていました」

 人を喰らうというのは本当だった。


「なあんだ、 四人も戻っているじゃないか」
 と、 のんきに指を折ったのは 穂田里だ。
「入って戻らなかったのは 何人だ」と、 追求したのは玲である。

「入ろうとするのを 村の人間が見つければ、 もちろん止めます。
 そうしますと、 隠れて こっそり入ろうとする方々が居て、
 実際の数は分かりません。
 流行はやりがあるらしく、 時に、 多くなったり 少なくなったりしているようです。
 死者の森の周りを 全部見張るのは無理でございますから、
 いったいぜんたい 何人があの森で消えてしまいましたやら……。
 あっ、 そうだ。
 ここ何年かの事でしたら、 森番の八福はちふくの小屋に行けば、
 いくらか 見当が付きますでしょう」



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