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薬種狩り 十五の1

 しばらく南に進むと 集落に出た。
 そこから川を下って 海に出る。
 『死者の森』まで、 陸路だけでは 大きく回り道をしなくてはならなくなる。
 途中まで海路を使った方が いくらか早い。
 旅の空に夕陽が、 つるべ落としに沈むようになっていった。

 水行十日、 陸行二十日。
 だいたいそんくらいの日数を掛けて 『死者の森』にほど近い村に着いた。
 意外にちゃんとした宿屋もあり、 旅で消耗した体に一息つかせる事が出来た。


「ちょっと聞きたいのだが
 『死者の森』とは、 ぶっちゃけ どのような森なのだろう」
 宿帳を持って部屋に現れた番頭を捕まえ、 穂田里は質問した。

 朝廷の調査報告でも、 おどろおどろした名前以外は 何も分かっていないに等しい。
 加えて 『教えの書』にあった怪しい記述も気になる。
 最後の頼みの綱であるからには、 少しでも情報が欲しい。

 番頭は 愛想笑いで答える。
「お客様、 あの森は 観光向きではございません。
 少し先に、 紅葉の渓谷を眺めながら 露天風呂が楽しめる温泉宿がございます。
 手前どもの系列宿でございますから、 ご紹介いたしましょう。
 すっかり見ごろでございます」
「せっかくだが、 観光がしたい訳ではない。
 森のことを教えてくれ」

 番頭は やれやれというように頭に手をやった。
「ははあ、 噂をお聞きになっての肝試しでございますか。
 やはり お勧め出来ません。
 あの森に入った人間は、 実際 ほとんど戻ってまいりません。
 この村には お化け屋敷と 化け物屋敷、 幽霊屋敷も取りそろえてございます。
 お化け屋敷と化け物屋敷は 入場料が掛かりますが、
 それはもう 良くできておりまして、 思う存分悲鳴を上げて頂けます。
 幽霊屋敷は無料ですが、 必ず出てくるとは限りません。
 肝試しのお薦めは、 お化け屋敷でしょうか」

「肝試しでも無い」
 宿帳に記入し終わった玲が、 ぴしゃりと遮った。
 声につられて、うっかり見てしまった番頭は 慌てて目をそらす。
「僕たちは、 帝の意を受けて 典薬寮から来た。
 森を調査しなくてはならない。
 ほとんど戻ってこないという事は、 無事に戻った者も居るという事だ。
 違うか」
 番頭の態度が変わった。
 あけっぴろげな商売熱心が影をひそめ、 慎重に居住まいを直して問いかけた。

「これは失礼いたしました。
 しかし、 都をどのように出てこられたのでございましょう」
「そうか、 都は封鎖されたか。 僕たちが出発してから ずいぶん経つからな。
 その間に 事態は悪化したとみえる。
 冬枯病の事は知っているか」
 番頭は頷いた。

「はい。 なんでも 特効薬が品切れになったとか。
 薬ができるまでの辛抱なのでございましょう?」
 天狗苺さえあれば簡単に治っていた為、 番頭も のんきな事を言っているが、
 都を封鎖したという事は、 いよいよ事態は切迫しているという事だ。




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