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薬種狩り 十四の1

 名人芸というには大きすぎる出口をこしらえて、
 悲願の隧道は 貫通した。
 米斗亥の自信は いささかも揺るがず、
 常軌を逸した村人の 歓喜の声に包まれた。
 そして、 性懲りもなく 開通記念の宴へとなだれ込んでいった。
 今回の主役は、 米斗亥である。

 前回を上回るドンチャン騒ぎを後に、 衣都は 村長宅を抜け出た。
 今夜は 一滴の酒も 一口の魚も口にしていない。

 裂け目に架かる橋の手前まで来て、 ためらった。
 橋を下ろすには 衣都一人の力では足りない。
 留めてある縄を切るという手があるが、 一気に落ちれば 壊れてしまうかもしれない。

 立ちつくして悩んでいると、 後ろから声が掛かった。
「どうしたの。 何でも相談に乗るわよ」
 海太郎の母だった。
 何を言い出すかわからないからと、 村長の家は 出入り禁止にされている。

 どこかの宴会に紛れていたのだろう。
 ほろ酔いで、 いつもより さらに気が大きくなっているようだ。
 ドンと胸を叩いて見せる。

 衣都は 素直に相談した。
「橋を下ろしたい」
「そんな事なの。 まっかせなさーい」
 いとも簡単に引き受けて、
 近くの宴会から、 酔っぱらった筋肉男を 二人ばかり拾ってきた。

「ほら、 橋を下ろして。 この子が渡りたいらしいの」
 酔っ払いは 陽気に歌など歌いながら、 調子よく願いを叶えてくれた。
「じゃあな、 姉ちゃん」 「本番はこれからだぁー」
 へろへろと手を振って、 戻っていった。
 海太郎の母も、 一緒になって騒ぎながら 去った。

 衣都は それを見送って、
 腰に着けていた赤い小袋を、 橋を支える為の杭に結わえ、
 昼間のうちに調べて目星をつけておいた場所に向かった。

 地形を考え、 身を潜める位置を決める。
 あいつは きっとやって来る。

 さかな村の村人たちは 勅書に膝まずいた。
 帝とは そういう存在だった。
 この国をべる頂点に座している。
 その帝が 天狗森の開発を許し、 帝に仕える役人が 父の命を奪った。
 そうして、 いつの間にやら自分は 勅書をたずさえて旅する二人を案内している。

 未だに 衣都の中では、 父の死が 落ち着き場所を見つけられずにいた。
 駄狗は 酒が嫌いではなかった。
 飲む機会は多くなかったが、 一仕事を終えた時には 実に美味そうに飲んだ。
 衣都がねだると、 もう少し大きくなったら一緒に飲もう と笑ったものだ。
 結局そんな機会は一度も無く、 駄狗はった。
 酒を飲んだ時、 あの笑顔を思い出してしまった。

 衣都は、 物心が付いてから 数えきれない危険を 駄狗と一緒に乗り切ってきた。
 出来るのは 道案内ばかりではない。
 腕力ばかりの男などより 技を持っている自信がある。

 必ず仕留める。
 仕留めて、 あの世の駄狗への貢物みつぎものにする。
 それが 衣都の弔いだ。

 待ち伏せの体勢を整えようとした時、
 懐の中で カタコトとくぐもった音がした。
 迷子鈴だ。
 音のするものは邪魔になる。
 取り出して、 近くの枝に 動かないようにして慎重に掛けた。

 腰から外した山刀を握り、
 夜の中に 闘志を隠して気配を沈めた。



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