RSS

薬種狩り 十三の4

 と、 その時、
 良く通る声が その空気を切り裂いて響いた。

「者ども控えーっ。
 この勅書が目に入らぬか。
 我らは 恐れ多くも 帝の勅命をたまわった勅使であるぞ。
 頭が高―い」

 柿の木を背に、 玲が 高々と勅書をかかげていた。
 ははーっ。
 村人は 一人残らず土下座して、 地面にいつくばった。
 今回は効果絶大である。

「数々の失礼の段、 お許しを。
 ただいま 村長を呼びにやらせますゆえ、
 しばしお許しくださいますよう、 お願い申しあーげたてまつりますでございます。
 与作、 早く村長を引っ張ってこんかい」
 年かさの男が 慌てて若い男を追いやったり、
 何度もぺこぺこと這いつくばったり、 もう、 大変である。
 あからさまに 態度が一変した。
 起き上がろうともがいた海太郎を、
 大勢が寄ってたかって押さえつけた。

 下にも置かぬもてなしで 村長の家に招かれ、
 ごちそうが出てくるわ、 酒がふるまわれるわの大騒ぎになった。

「帝の勅使様が さかな村にお越しになるなどは、 村の歴史始まって以来の名誉でございます。
 わたくしが生きておるうちに このような奇跡が起こるとは…… ううっ、 ううわーん。
 申し訳ありません。 嬉しさのあまり、 まともなご挨拶も出来ず、 汗顔かんがんの至り。
 ひーん、 ぅおーん、 おんおん。 ちーん」
 滂沱ぼうだと涙を流し、 鼻水まで垂れ流す村長であった。

「村の名は 『さかな村』というのか。 字はどう書く」
 玲が聞いた。
「んー、 んーと、 ひい爺様は もの知りだったから、 生きていれば 分かったと思いますが、
 今や この村で知る者はおりません。
 なにしろ 書く機会がございませんものですから」
 『忘れられた村』と言われるだけの事はある。
 住民でさえ 忘れかけていた。

 顔に 大きな青あざをこしらえた穂田里は、
 用意された料理を遠慮なく食べ、 酒を飲み、 村の衆の歌に合わせてどら声で歌い、
 食べては飲んで、 摩訶不思議な踊りを披露し、 飲んで食べて、 騒いだ。

 衣都は、 村人の一人に差し出された酒を、 くいと 一息で飲み干した。
「衣都は イケる口だったのか」
 玲は酒を飲まない。
 理性が朦朧もうろうとするのを好まないからだ。
 酔っ払いの姿を 素面しらふで眺めていると、
 なぜ 好んでおバカになりたがるのか理解に苦しむ。
 人生の貴重な時間を 無駄遣いしている としか思えなかった。

「初めて飲んだ」
 衣都は 空になった盃を無造作に差し出した。
「いい飲みっぷりです。 お気に召しましたか」
 村の男どもが 先を争って酌をする。
「美味い」
「鶴吉が作った 村一番の酒です。
 お褒めにあずかり、 感激です。
 ありったけお持ちしました。 どんどん召し上がってください」
「料理の方も是非どうぞ。
 磯で釣り上げた魚ですが、 潮の流れが激しいので 身が締まっております」
「美味い」
「勅使様にお褒め頂いて感動です」
 勧められるままに飲んでは食べ、 聞かれれば褒めた。
 やたらに喜んでもらえるので、 片っ端から何でも褒めた。
 すると また勧められ、 飲んでは食べ、 褒めた。
 飲んで、 褒めた。

 隣りに居た中年親父が ぐでんぐでんに酔い潰れて、 奇声を上げる。
「しょうがねえな。
 調子に乗って 親のかたきとばかりに飲むんじゃねえ。 勅使様にご迷惑だ。
 誰か連れ出して 寝かせちまえ。
 すいません。 お気を悪くしないでやってください。 浮かれちまってるだけなんで。
 大事なお役目がある勅使様に 申しわけない」
 近くの数人が、 よってたかって 酔っぱらいを部屋から放り出す。

「うん、 大事…… 無念を晴らす…… 親の敵……」
 何事もない顔で 飲み続ける衣都も、 実はかなり酔っていた。
 こうして ドンチャン騒ぎのうちに夜は更け、 朝が来た。




戻る★★★次へ

 
トラックバック
トラックバック送信先 :
コメント
▼このエントリーにコメントを残す

   

プロフィール

しのぶもじずり

Author:しのぶもじずり
とりあえず女です。
コメントを頂けると、うれしいです。

最新記事

最新コメント

カテゴリ

検索フォーム

いらっしゃ~い

らんきんぐ

よかったら押してね
 にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ にほんブログ村 小説ブログへ
 

リンク

このブログをリンクに追加する   リンクフリーです

おきてがみ

FC2以外のブログからお越しの方、クリックで足跡が残せます。
「ことづて」は機能していませんので、ここにはコメントは残せません。

RSSリンクの表示

QRコード

QR

月別アーカイブ

フリーエリア