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薬種狩り 十三の1

 細紐の橋を 走るように渡っていった天狗の姿は、
 対岸に着くとすぐに 見えなくなった。
 小さすぎるせいなのか、 動きが素早いからなのかは、
 見送った二人には判断できない。

 二人きりになったのを意識してしまった穂田里の様子が、 ぎこちなくなった。
「衣都さん。 ご趣味は?  ……とか聞いている場合ではないけど、
 何を言って良いのやら……
 あー、 あー 本日は晴天なり…… でもないな。 うおっほん」
 咳払いでごまかしているうちに、
 喉は痛くなるわ、 間が持たないわで 元気が無くなっていく。
 天狗、 玲、 早く帰ってきてくれ! 
 と、 天を仰いで嘆息した。

 小高い山の上から 霊気の様子を見に出かけたきり、 天狗は なかなか帰ってこない。
 しびれを切らした穂田里は、 うろうろと歩き回ったり、 大声で叫んだりしてみたが、
 横なぐりの風が 声をさらって 吹き散らしてゆく。

「くそっ、 さっき 迷子鈴を鳴らしたのに、 玲が出てこない。
 閉じ込められているんだ。
 もしかしたら、 身動きできないように拘束されているとか。
 くわあー、 早く助けなきゃ。 跳び越えるぞ」

「止めとけ」
 衣都の乱暴な言い方が、 そもそも 誤解の大きな理由の一つだ。
 『危ないわ。 お願い。 止めて』とか言ってくれれば、
 『うん、 分かった。 止める』と 素直に言うことを聞いてしまうか、
 もしくは
 『男には 危険を承知でやらねばならないことがあるのだ』
 と かっこつけるとか出来るのに、 これでは気がくじける。
 困ってしまう。

「帰ってきた」
 衣都が指差す。

 頼りなく揺れる細紐を 危なげなく渡ってくる天狗が居た。
 渡りきった枝から、 ふわりと風に流されるように跳び、
 衣都の肩に 着地を決めて言う。
《天狗苺は無いな》
「遅い!」
 穂田里が 不機嫌そうに噛みついた。

《ちっとばかり 寄り道したからな。
 玲を見つけたぞ》
「おおっ。 で、 玲は酷い目に会っていないか。
 閉じ込められているとか、 ぐるぐる巻きに縛られているとか」
 天狗は、 にやりとからかうような笑みを浮かべた。
《あれこれと 怪しい想像をしていたようだが、
 玲は 大男をしっかり尻に敷いておったぞ》

 微妙に安心できない表現を飲み込んだ穂田里は、 渋い顔だ。
「それなら、 何故出てこない」
《足をくじいているようじゃ。
 手当てをしてもらって、 腫れは引いたようだが、 まだ 歩くのは難儀そうだ。
 治るまで面倒を見てもらえ。 大男の母親も居る》
「そうか、 母親が一緒なのか」

 『母親』という一言が、 穂田里を落ち着かせた。
 穂田里にとって、 『母親』と『安心』は 同義語だ。
 世の中を知らないと言うべきだろう。

「どのくらいすれば、 治るか分かるか」
《三、四日というところじゃな》
 天狗の提案を受け入れ、 待つことにした。



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