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薬種狩り 十二の3

 海太郎の母は、 朝晩の飯時に 鍋の蓋を叩いて知らせる。
 狭い家だから そんな事をしなくても 十分声だけで聞こえるのだが、
 癖になっているのだろう。

「鈴の音が聞こえなかったか」
「あれは 鍋の蓋だ」
「鈴の音が混じって聞こえた」
「じゃあ 鈴虫だろ」
 そんな会話を毎度続けている。
「僕の仲間は まだ見つからないのか」 と問えば、
 適当に はぐらかされているうちに、 足は普通に歩けるまでになった。
 根が丈夫なのだろう。
 回復は速い。

 自分で探しに行くと言った玲に、
「オニの里に一緒に行ってもらう。
 手当てをしてやったんだ。 礼をしてくれてもいいだろう?」
 海太郎は 当然のように言った。
 意外にケチくさい言い方だ。

「感謝はしている。
 礼が欲しいなら金…… は役に立たないのか。 後で何か考える。
 今は 僕一人が 勝手な行動をとる訳にはいかないのだ」
 それを聞いていた海太郎の母が、 なにげに口を挟んできた。
「玲さんのお仲間には 話が付いているみたいだよ。
 玲さんか、 お連れの娘さんのどっちかを、 海太郎の嫁にくれるって」
 どこにもそんな話は出ていない。

「嫁って何だ。 僕は れっきとした男だ」
 玲のこめかみに青筋が立った。
「一緒に旅をしてくれるなら、
 俺は 嫁だろうと 亭主だろうと 立場にこだわるつもりは無い」
 ややこしい事を 爽やかに言ってのけるところを見ると、
 海太郎は あとさきを考えない 迷惑な人柄らしい。
「偉い!  良い覚悟だわ」と母。
 困った事に、 暴走する母子を止める人間が居ない。

「僕は 海太郎を嫁にするほど酔狂じゃない」
 当たり前である。
 全身が筋肉モリモリの大男を 嫁にもらいたがる男は居ない。
 たとえ居たとしても、 極めて少数派である事は間違いない。

「歩けるなら出発しようぜ」
 何も問題が無かったかのように 海太郎は催促した。
 旅の準備は整っている。
「穂田里と衣都は何処だ」

 海太郎の母が言ったことなど、 玲は、 はなから信じてはいなかった。
 二人が、 玲を置き去りにしたかもしれないなどとは 一時も疑わなかった。
 あの二人が 自分を置いてきぼりにするはずが無い。
 根拠など何処にもないが、 不思議に確信がある。
 必ず探している。

 それが 未だに姿を現さないのは、 どう考えてもおかしい。
「穂田里と衣都に何をした」
 美しい双眸から放たれる 凍るような視線は 玲の武器だ。
 海太郎に鋭く突き刺さる。

 その時、 ズーンと、 地響きを伴った音がした。




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