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薬種狩り 十二の2

 ひたすら穴を掘り続ける主人公に感情移入しているうちに、
 どうやら 風呂が沸いたようだ。
 海太郎が来た。

「足が不自由だろう。 俺が一緒に入って洗ってやる」
「余計なお世話だ。 一人で入る」
「遠慮は無用だ。
 俺が 隅から隅まで…… ハックション、 ハックション
 ……あれ、 おかしいな。 風邪をひいたかな」
「くしゃみが二つ…… 天狗が居るのか?」
 独り言に近い呟きを漏らした玲に、 海太郎は鼻を鳴らした。

「どこの迷信だ。
 いいか、 『一で褒められ、 二で憎まれて、 三で惚れられ、 風邪引く』てんだ。
 くしゃみが二つは、 誰かが俺の悪口を言っているってことよ。
 くそっ!  どこのコンチクショウだ」

 その時、 床に開いたまま置いてあった冊子の一枚が ひらりとめくれた。
 小さな何かが 走りすぎたかのように。
 これも気のせいなのだろうか。
 天狗が居たとしても 自分には見えないのだ、 と玲は残念に思い、
 衣都の言葉を思い出した。

『目を凝らすな。 気にするな。 天狗は居る』
 頭の中で 何度か繰り返すうちに、 ばかばかしくなってきた。
 まるで、 いい加減な人間になれと言っているようなものだ。
 物事をしっかりと見定めるのは 大事だ。
 そうして それを放っておかずに整理し、 きちんと認識するのは 大人のたしなみだ。
 怠れば、 道に迷う。

 あっ! 

 迷子穂田里に見えるのも、
 子どもに見えることが多いのも、
 そういうことだったのか。
 自分は、 得た知識や積み重ねた認識を通して 世界を見ていたのだ。
 何も考えずに 無心になれということなのか。

 しかし、 天狗が居るのか居ないのか確認ができない今、
 試してみる気にもなれなかった。
 立ち上がってみると、 まだ少し痛いが ゆっくりとなら歩けないほどではない。
「風呂場はどっちだ」
「おぶされ。 一緒に入って、
 ハ、ハ、ハックション、 ハックション。 駄目だ。
 風邪をひいちまったらしい。 一人で入れるか」
 海太郎が残念そうに言い、 ぶるっと体を震わせた。

「あたしが一緒に入ろうか。
 ハックシュン、 ヘックション」
 海太郎の母が言う。

 二人とも無視した。
 風呂場くらい自分で見つけてやる。



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コメント
1694: by lime on 2013/10/18 at 08:28:52 (コメント編集)

もう、このあたり最高にテンポよくって楽しいです。
『一で褒められ、 二で憎まれて、 三で惚れられ、 夜風邪引く』って、どこかの言い伝えですか?
いいなあ、これ。
なぜか一緒に風呂に入りたがられる玲(笑)
傍若無人のお詫びに、入ってあげればいいのに。そして天狗、もう近くにきてるのかな??

1695:Re: lime様 by しのぶもじずり on 2013/10/18 at 17:23:04 (コメント編集)

一で褒められ…… というのは、
くしゃみをした時に、おじいちゃんやおばあちゃんが言いませんか?
「あっ、一つだから、誰かが褒めてる」とか、
「三つ出たから、惚れられちゃったなあ。まいった。誰だろ」とかいう戯言を。
ローカルなものなのでしょうか。

玲の入浴シーンでは視聴率を稼げませんかねえ。
私が書いても色っぽくはならないか。

天狗は、たぶん来てます。

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