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薬種狩り 十二の1

 大男の梅太郎が家に入ると、
 奥には 足首に布をぐるぐる巻きにした玲が ぐったりと横になっていた。
 傍には 粗末な紙をとじた冊子が三冊 転がっている。
 玲は 額に手を当て、 苦しそうに小さく呻いた。

「具合が悪いのか」
 心配そうな梅太郎の問いかけに、
 玲は体を起こし、 しかめっ面で答えた。

「当然だ。 いったい何だ、 これは。
 読むと頭痛がする。 もっと面白い書物を持ってきてくれたまえ。
 それから、 そろそろ湿布を替えろ。 僕が指示した薬草は採ってきたのか」
 玲は 次々と海太郎に注文をつける。

「それじゃ駄目か」
 海太郎は 床に転がった冊子を眺め、 困った顔で応じた。
「ふん、 『船吉じじいの村内名所巡り』と
 『やっさんのどーんと一発』と 『亀女かめじょのどろどろ日記』のことか。
 村内に名所は無いということと、 やっさんは 底なしの馬鹿だということ、
 亀女には 絶対に近づかない方が良い事は分かった。
 だが、 いっこうに面白くない」
 内容に踏み込んだ感想は、 きっちりと読んだ証しだ。

 しかし、 大好きな書物を読んで 具合が悪くなったのは、 これまでの人生で初めてだ。
 その腹立ちもあってか、
 足をくじいた玲を村まで背負い、 手当てをしてくれた海太郎に対して、
 玲の態度は 相変わらずでかい。

「それなら これはどうかね。 鉄さんのところから借りてきたよ」
 海太郎の母が聞きつけて 台所から顔を出し、
 『我が穴掘り人生』全六巻を押しやった。
「これはつまらん。
 一巻から六巻まで ずうっと穴を掘っているだけだぞ。
 俺は『どろどろ日記』の方が面白いと思うがなあ」
 言いながら布を解く海太郎に 冷ややかな視線のみを返して、
 玲は自身の足首を診察した。

「ほとんど腫れは引いたようだ」
「この薬草でいいのか」
「もう要らない。 それより 風呂に入りたい。 用意しろ」
 押されっぱなしの海太郎である。

「あ、 そうだ。 僕の仲間は まだ見つからないのか」
 やっと肝心な事を尋ねた時には、 海太郎は裏口から出て行ってしまった。
 風呂の支度をする為だ。
 やがて まき割りの音がし始めたと思ったら、
 ガラガラと金属がぶつかり合う音が 盛大に響いた。
「あああ、 海太郎の奴、 穴掘り道具を蹴散らかしたな。 片付けろと言ったのに」
 海太郎の母が ぼやいた。

母者ははじゃ、 今、 鈴の音が聞こえなかったか」
「いや、 おおかたのみ金槌かなづちでもぶつかった音だろう。
 うちには 鈴なんか無いよ」
「この家には無くとも、 この世には鈴が存在する」
「気のせいだよ。 あたしには聞こえなかった」
 おかしなものを読んでしまったせいで、 ついに 幻聴まで聞こえるようになったのか。
 玲は 嫌そうに親指と人差し指の先で 『亀女のどろどろ日記』をつまむと、
 本好きにあるまじき行為と思いつつ、 部屋の隅まで放り投げた。
 これも人生初だ。
 くじいた足をさすりながら 『我が穴掘り人生第一巻』に手をのばす。



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