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薬種狩り 十一の6

「あ、い、い、う、え…… じゃなかった。 衣都……さん。
 あのう、 そのう、 ぞんざいに扱ってすまなかった。
 逞しいし、 頼りになるし、 てっきり男の子だとばかり思っていたんだ。
 だって、 普通女の子は、 もっと出っ張っていたり 引っこんでいたりするもんだろ。
 うわああ、 やっ、 すまん。
 これからは心を入れ替えて 真人間に…… じゃなくて、
 大切に扱うから、 許してくれ」

 祖母と母以外は 男ばかりの一家。
 出入りするのも男ばかり という環境で育っていたから、 女の子には免疫がない。
 「英雄になって お姉ちゃんたちにモテモテ」発言は何処へやら、
 初心うぶにうろたえる穂田里であった。

「変えなくていい」
 衣都は、 穂田里が何を言っているのか分からなかった。
《やれやれ、 他に もっと大事な事があるんじゃないのか》
「そうだ、 玲を取り返さなくちゃ。
 わっ、 橋が無い」
 天狗に注意されて、 穂田里は正気に戻った。

 見渡せば、 村の奥の なだらかな丘陵には田畑があり、
 さらに先には ポツンと小高い山が一つ、 青空を背景にして座っていた。
 あの山の頂なら、 広い範囲が見渡せそうだ。

 ちらりと見えた 村人らしい人影を見かけた穂田里は、 大声で呼びかけてみたが、
 聞こえないのか いくら叫んでも完全に無視され、 すぐに見えなくなった。
 さっきの大男を呼び出してもらおうとしたのだが、 努力は空振りに終わった。
 それからは 誰も姿を現さない。

 がっかりと途方に暮れていると、
 天狗が いつも通り、 のんきに話しかけた。
《ここから見える範囲には、 特に霊気は感じないなあ。
 あの小高い山のてっぺんなら 見晴らしが良さそうだぞ》
「…………」
 天狗に口答えする元気が 穂田里には残っていないようだ。

 代わりに、 衣都がせっせと荷物をかき回し、 細紐を取り出した。
 拾った枯れ枝を折って結び付けると、 狙いを定めて 裂け目の対岸に投げた。
 しかし、 惜しいところで届かない。
 枯れ枝は どこにも引っかからずに落ちる。
 諦めることなく繰り返し、 三度目に 橋の根元に上手いこと引っかかった。
 手元の紐を 木の幹に結び付ければ、 頼りない橋が架かる。

「こんな細紐じゃ渡れないぞ。 何をするんだ」
 首をかしげる穂田里に構わず、 衣都は 肩から天狗をつかんだ。
「天狗様。 見てきてくれ」

《わしひとりで見て来いってか。 まっ、 仕方が無い》
 天狗は ひらりと紐に飛び乗り、
 高下駄だというのに まったく危なげもなく、 走るように渡っていった。
 さすがに天狗だけあって、 身が軽い。

 見送った衣都は、
 不意に思いついたように 迷子鈴を取り出し、 チリンと振った。
 涼やかな音が、 村の隅々まで沁み通っていくように流れた。



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コメント
1692: by lime on 2013/10/16 at 07:22:41 (コメント編集)

穂田里の狼狽は、今後もつづくのか、ちょっと楽しみです。難しい関係にならなきゃいいけど。

でも衣都は、とても女の子らしい細やかなところがありますよね。
私なら手っ取り早く、天狗を、向こう側に投げて・・・あ、いえ、なんでもありません。
そんな粗野な人間には、天狗は見えないですよね><
このシーン、とても面白かったです。

1693:Re: lime様 by しのぶもじずり on 2013/10/16 at 17:46:20 (コメント編集)

とりあえず玲を取りもド咲く手はなりません。いい加減にしてもらわないと。

そうですよね。天狗を投げる方が簡単ですよね。
気がつかなかった事にしてください(笑)
山刀を投げるか、枝を投げるか、悩みました。
橋を傷つけるわけにもいかないので、こうなりました。

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