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赤瑪瑙奇譚 第四章――8



 帰り道、 迎賓館に着く少し手前で、 ユキアは 突然馬車を止めさせた。
 護衛の兵士が 何事かと訊きに来る前に、 馬車から飛び降りて、 暗い夜道を戻る。
 護衛が 慌てて後を追った。
 よく見ないとわからないが、 人が倒れていた。

「死んでいます。 警邏の役人に知らせますから、 姫様は 馬車でお帰りください」
 近づいて調べた護衛兵が 報告した。

「病気なの?」
「いいえ、 切り殺されています」

 眉をひそめ、 踵を返そうとした時、
 防火用水なのだろうか、 道端の大きな水甕の陰に 震えているものが見えた。
 ユキアの様子に 護衛兵も気づいて、 剣を抜いて 歩み寄る。
「何者だ。 出て来い」

「うわあ!  見てません。 何も見てません。 お助けを……」

 隠れていた男は、 酒の臭いを ぷんぷんさせたまま、 どうやら腰を抜かしている。
 臭いは残っていても、 酔いは すっかり冷めているようだった。
 地面に手をついて、 しきりに 命乞いを始めた。

「安心しろ。 賊ではない。 見ていない というのは本当か」
「ああ、 はい。 怖いし暗いし、 何も。 本当に、 ほーんとうに、 何にも見えませんでした」
「じゃあ、 物音は 聞こえたかしら」
 ユキアが、 出来るだけ優しそうな声で 聞いてみる。

「お、 音……、 聞きました……いえ、 聞いてません」
「どちらなの?」
 思いのほか鋭い ユキアの問いかけに、 酔っぱらいは 即座に観念した。

「すいません。 …………あのう、 『役立たずめが、 このミノセが成敗してくれる』 って、
 あっ、 聞き違いかもしれません。 あわわわわ」

「姫様、 お戻りください」
 ユキアは、 素直に従った。 これ以上 首を突っ込まないほうがいい。
 ミノセ…… 第二王子の名前……。
 おとなしく馬車に戻った。


「メドリ、 第二王子のことは 何か聞いている?」

「はい、 コクウ城の女官たちから 噂を……。
 終戦の間際に、 兄のように慕っていた方が、 王子を敵前から逃がす為に、 目の前で 戦死なさったのが、
 深い お心の傷になっていらっしゃるとか。
 自軍を率いて 共に戦っていた 若き領主は、 劣勢の中、 敵に立ち向かい、
 全身に 飛び交う矢を受け、 剣と槍に串刺しになってもなお、 敵の前に 立ちはだかって、
 王子に向かおうとする敵を 阻(はば)み、 壮絶な最後を遂げられた とのことでございます。
 その後 たった一月で 講和がなされたのが、 余計に悔しく お心残りなのではないかと、
 皆が言っておりました。
 未だ 沈み込まれていらっしゃる とのことです。 儀式にも 晩餐会にも お見えになりませんでした」

 コクウ城下の夜道は、 ことさらに暗かった。


                           第五章につづく


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by まとめwoネタ速neo on 2012/06/01 at 21:48:10

 帰り道、 迎賓館に着く少し手前で、 ユキアは 突然馬車を止めさせた。 護衛の兵士が 何事かと訊きに来る前に、 馬車から飛び降りて、 暗い夜道を戻る。 護衛が 慌てて後を追った

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コメント
3251: by 椿 on 2015/10/20 at 20:09:19

二人の縁談は、順調なようなそうでもないような。
先が気になりますね! どんどん読んじゃいます。

3253:Re: 椿様 by しのぶもじずり on 2015/10/21 at 09:12:07 (コメント編集)

どんどん読んでいただけて うれしいです♪
楽しく読んでいただける物を書きたいです。

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