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薬種狩り 十の4

「ふぉっふぉっふぉっ。 でかした。 なるほど、 そういうことだら」
 村長の顔が 複雑に波打った。
 おおいに笑ったらしい。

「そっちの色白の坊も 読んだんだったら気が付いただら。
 『教えの書』は ヘンな本だら。
 確かにもっともらしいことが書いてあるけんど、
 それよりも 暮らしの細々とした事が 数多く書いてあるのだら。
 生ゴミの処分方法まであって、
 いったい琵琶妥流は何を考えておったやら と不思議だっただら」
 ひょうひょうとした村長の言葉に、 言い返せない導師は黙り込んだ。

 答えたのは玲だ。
「確かに。
 一部の奇妙な事柄を除けば、 当り前のことばかりが書いてある」
 村長のへの字の皺が上下に揺れる。
「うんうん、 この国の人には当たり前のことばかりだら。
 しかし、 わいらの先祖にとっては どうだったのかなあ。
 例えば 生ゴミのことだけんどな。
 砂漠なら すぐに干からびるだら。 放っておいても問題は少ない。
 じゃが 湿気の多いここでは腐る。 臭いし 病の元にもなる。
 放っておいたら ご近所迷惑だら。
 環境が違えば おのずから暮らし方も変えなくてはならんが、
 習慣を変えるのは難しいだら。
 隠忍の一族は 頑固者が多い。
 ご近所迷惑が度重なれば、 そりゃあ揉め事になるだわ。
 環境や習慣が違えば、 当然ものの考え方も違ってくるだわな。
 生き方や考え方の違いを理解し合うのは、 見た目の違和感を克服するよりも難しい」

「それだば、 わいらは この国人くにびとの真似をして暮せということだか」
 若い男は 不服を隠そうともしない。
米斗亥まいとがい
 さっきおまんは 『心を開けと書いてあるのは分かった』と言ったが、
 何も分かっていないだら。
 心を開くとは、 こびへつらう事でも、 れ狎れしく狎れ合うことでもないだら。
 真っ向うから批判されようとも、 揺るがずに受け止められるほどの誇りと、
 正しいと思う事を 臆せず主張する勇気がなくては、 意味が無いだら。
 真に誇りある人間なればこそ、 素直に自分とは違う意見に耳を傾けることができる。
 真の勇気を持つ人間こそが 世界を開く…… だら」

「大丈夫だと思うぞ」
 ふにふにと波打つ皺を熱心に眺めていた穂田里が、 請け合った。
「人ごとだと思って、 いい加減な事をいうでねえだら」
 若い男が 即座に咬みついた。
「本当に そう思ってるんだがなあ」

 都で見た資料には、 難攻不落で人を寄せ付けぬ地だとあった。
 しかし、 衣都の活躍があったとはいえ、
 穂田里も玲も 無事に山を越えて来ることができたのだ。
 山に慣れた猟師や樵なら 越えられないはずがない。

 登る前に一夜の宿を借りた麓の民家でも
 「山人やまびとなら、 行けない訳ではない」と言っていた。
 「だが」と言葉を続けたのだ。
 あんな山奥に隠れ住んでいるからには 深い理由があるに違いない。
 そっとしておいてやりたいのだと。
 街道が整備されて、 国の中でも行き来が増えた。
 様々な土地に 様々な人間が住んでいるのだ と人々の理解が進んでいる。
 時間はかかるだろうが、 今なら、 少しずつでも上手くやっていけそうな気がした。

「まだ薬草を探すだか」
 村長の問に 当然だと答えて、 穂田里は東を指した。
「東の先に、 秘境の地があるという。 そこも探す」
 村長と導師が 気の毒そうな顔になった。

「無理だら。 東山は こっち側から見れば普通の山だが、
 あっち側は 崩れてすっぽりと崖になっている」
 隠忍の一族が この地に腰をおろし、 ようやく暮らしが落ち着いた頃、 昔々の話である。
 この辺り一帯に 大地震があった。
 隠忍の里にも 大きな被害が出た。
 やっとの思いで立ち直ったある日、
 東山に登った村人が 頂上からさらに東を見れば、
 すっかり地形が変わり、 様子を一変させた光景が目に飛び込んだのだった。
 東に向いた山の斜面は 切り取られたかのように落ちて、
 切り立った崖が口を開けていた。

「降りられないだら。 落ちたら助からん」
「遠回りする道はないのか」
「無いだら。 他を探した方が良い」
 村長の言葉に、 導師も深くうなずいた。



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