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薬種狩り 十の3

『我らは迫害から逃げた。
 迫害を受けた者は 時に心を壊し、 しばしば 判断力を失う。
 故に 逃亡は決して間違いではなかったと思う。
 しかし、 それが 全ての解決とも思っていない。
 人間には 無くしてはならないものがある。
 我らは心を癒し、 失ったものをこの手に取り戻す。
 その為に逃亡したのだという事を 忘れてはならない。
 何時の日か、 一族の誇りと勇気を以って 再び広い世界に向かい、 心を開け。
 その時が来る事を信じ、 祈りを込めて この書を記す。
 琵琶妥流』

「……一番大事な 『心を開け』がここにあるだら。
 わいらが 誇りと勇気を手にしているなら、
 今こそ 教えに従って 心を開く時なのだら! 
 三人の若者が、 都から薬草を求めてやって来た。
 寝床山に その薬草があるかもしれないと言っているだら。
 掟を破ることになるけんど、
 病に苦しむ人らを救う為なら、 お山も お天道様も 文句は言わないと思うのだら。
 『援けを乞う者があれば、 心を開け。 持てる物を与え、 為せる事を為せ』
 協力してやって欲しいだら」

 しーんと静まり返った教堂。
「任せておくだら」
 一人の声が上がった。
「摩周の命を助けてくれた礼をするだら」
「珍しいもんを見せてくれた礼もせんとな」
 笑顔で、 また勇んで、 次々と村人が立ちあがった。

 村人と一緒に 三人もみそぎの儀式を受けた後、
 手分けの段取りをつけて 寝床山に入った。

 食料の採取を、
 水汲みを、
 日々の暮らしに欠かせないあれこれを後回しにして、
 多くの村人が、 朝早くから日暮れまで 一心不乱に天狗苺を探した。


 ――しかし。
「残念だっただら」
 寝床山には 草苺さえ見当たらなかった。
「無いものは仕方が無い。 おかげで 心おきなく先に進める」
 いくらか青ざめながらも 冷静に言う玲よりも、
 参加した村人たちの方が 残念がってくれた。

 教堂に戻り、 三人に向かって、 思い思いに言葉を掛けては帰っていく。
 一人だけ 帰らない男が居た。
 薬草探しには加わっていなかった 若い男である。
 穂田里に殴りかかり、 ガンを飛ばしてきたあの男だった。

 床を踏みならすかのように、 足音荒く導師に近づいた。
「導師様に聞きたいことがあるだら。
 心を開けと書いてあるのは分かった。
 けんど また苛めてきたらどうするだら。
 昔みたいに もう一度逃げ帰るだか。
 見ろ、 奴らのように黒い髪と黒い瞳の中に入ったら、 わいらの赤い髪は隠しようがないだら。
 肌の色だって少し違う。 苛められないという保証はないだら。
 わざわざ辛い目に会うなど 馬鹿げているだら」

「おまんは、 小心者だっただか。
 起こってもいないことを恐れるな。
 『目の前にありもしない恐怖を遠ざけよ』
 やってみなければ 分からないだら」
 導師の声がでかくなる。

「見た目の違いは、 慣れる」
 衣都が ぼそりと言った。

 あくまで見た目にこだわる人間も居る。
 必ず居る。
 だが、 縁があるなら、 縁を結ぶことが出来たなら、 見た目は慣れる。

「考え方と習慣は 難しい」
 唇を尖らせて、 続けた。



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コメント
1650: by sannzi on 2013/10/03 at 23:56:45 (コメント編集)

今晩は(^^
今日も楽しませてもらって、其の上色々考えさせられてしまいました、有難うございます。
裏表紙の大切な事も、又ガンを飛ばした男の小心も良く分かる気もしますし。
迫害を受けた者が心を開くのは容易な事ではないのかも知れないですね。
深い話の中に軽妙な語り口がキンキラキンと光って読み易い文章。
文章が、自分でももたもたしていると感じる私には、とても良い参考になっております。

1651:Re: sannzi様 by しのぶもじずり on 2013/10/04 at 10:43:32 (コメント編集)

いらっしゃいませ。
楽しんで頂けたみたいで、うれしいです。
読みやすいと言って頂けたことも、すんごくうれしいです。

掘り下げると、こんなに簡単な話ではありませんが、
楽しい物語のの一部として、上手く解決できればいいなあという願いを込めて、
エピソードにしてみました。

温かいコメントを ありがとうございます。

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