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薬種狩り 十の2

 いつもの大声に、 村人の半数以上が その場でひっくり返った。

 導師の大声は続く。
「わいも数えた。
 その日、 すべてを投げ打って 数えただら!」

 あまりの真剣さに、 村人たちは声を飲み込んだが、
 (えっ?  数えたのか) と思った。
 絶対に思った。

「『遠ざけよ』は 確かに百八だった。
 しかーし、 『心を開け』は 百十あったのだら。
 奴は見落としたのだら」

 建物までもがビリビリと震えそうな大声にも負けず、
 玲は 憤然として立ち向かった。
「僕は数え間違ったりしていない」
 その場が しーんと静まりかえった。
 玲は胸を張った。
「僕が そんな初歩的な間違いを犯すはずが無い。
 『心を開け』は 百九だ」
(突っ込むのはそこか) と村人たちは思った。
 間違いなく 思った。

 が、 次の瞬間、 おちゃらけた思考はぶっ飛んだ。
 目の前に 奇跡が起きていた。

 導師の眉間の皺が 消えていた。
 切れあがっていたまなじりが 下がっていた。
 いかつい頬が ゆるんで丸みを見せた。
 そして、 真横に引き結ばれていた唇の両端が、 ゆっくりと上がった。
 誰もが初めて目にする 無邪気な笑顔がそこにあった。

「百十あるだら」
 笑いを含んだ楽しそうな声で 導師は言った。
 ちょっぴり得意そうに 「教えの書」を掲げる。

「最後の最後、
 裏表紙に もう一つ大事な『心を開け』があっただら」
「ええーっ!  嘘つけ。 それは ただの模様だろ」
 玲は納得できない。
 見た事もない小さな模様が 並んでいるようにしか見えないからだ。

「これは 隠忍の一族が 砂漠で使っていた文字なのだら。
 今となっては 読める人間は 一族にもほんの少ししか居ないのだら。
 ぬかったな若僧。 未熟者め」
 悪戯っ子が してやったという顔だ。
(やれやれ、 いくらなんでも それは無理だろう) と村人は思ったが、
 玲は悔しがった。

「くくっ、 詰めが甘かったか」
(だから、 それは無理だってば)
 勝ち誇った導師は 意気揚々と話を続ける。
「村長に訳してもらったから、 今から読むだら。
 しっかりと聞くがよろし」




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