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赤瑪瑙奇譚 第四章――7



 夕方から始まる祝賀興行には、 大勢の観客が 続々と集まってきていた。
 満席の客席が ほぼ埋め尽くされたころ、 ユキアも 高く張り出した貴賓席に着いた。
 右隣がカムライだ。
 さりげなさを装うように、 視線を舞台にむけたまま、 小さな声で 話しかけて来た。

「お話があります。 あなたと二人きりで会いたい。 いつが良いですか」
「兄上、 せっかちが過ぎると 嫌われますよ。 申し訳ありません ユキア姫」

 左隣から、 柔らかな声がした。
 見ると、 穏やかそうな青年が 微笑んでいた。
 兄上と呼ぶからには、 王子の一人なのだろう。 晩餐会でも目にしていた気がする。
 雰囲気が違うせいなのか、 兄弟でも 思ったほど似ていないが、 やはり整った顔立ちをしていた。

「申し遅れました。 カリバネ王の三男 ツクヨリです。
 紹介してもらえなかったので、 今日は無理を言って、 こっそり席を作らせました。
 お目にかかれて光栄です。
 貴国のものに比べて 見劣りする出し物でしょうが、 今夜は 楽しんでいただけると嬉しい」
「はい、 ありがとうございます」

「兄を許してください。 率直な性質なもので、 悪気はないのです。
 戦場では 向かうところ敵なしの活躍をした わが国の英雄です。
 多くの戦で 敵を完膚なきまでに蹴散らし、 地獄に 叩き落しました。
 戦いの申し子 というのでしょう。
 強いだけが取柄で、 女性に対しては 気遣いが足りないかもしれません」
「はい」
 お世辞のいえないユキアは、 ただ 返事だけを返す。

 そんな様子を満足そうに見て 微笑んだツクヨリが、
 ふいに目を逸らし 、憂いを帯びた表情で 後を続けた。
「わたしは、 どうしても 戦が嫌で辛かった。
 今、 和平が成って、 本当に ほっとしています」
 右隣で カムライが 憮然としているうちに 幕が揚がった。

 にぎやかな歌と踊りの後、 芝居が演じられる。
 ノミ川砦と呼ばれている舞台装置は、 あの国境の砦のことらしい。 よく出来ていた。
 敵に攻め込まれて 次々と倒れていく兵士たち。
 そこに 待ちに待った援軍が かっこよくやって来る。
 日嗣の王子と呼ばれているのは、 カムライを模しているようだが、
 やたらと頑丈そうな 強面の役者が演じていた。
 おおげさな立ち回りで バッタバッタと 敵を切り倒す。

「実際の砦の戦いは 悲惨なものでした。 多くの兵が 死にました」
 左隣のツクヨリが、 悲しげな声で 解説した。
 舞台では、 すったもんだの挙句に 講和が結ばれ、
 日嗣の王子の くさい独白の末、 平和を讃える極めの台詞が、 芝居っ気たっぷりに演じられた。
 そして、 平和を喜ぶ歌と踊りに なだれ込む。

「クスクスッ、 実際の兄上は、 あんな気の利いたことは 言いませんでした。
 何も 言いませんでしたね。
 活躍の場がなくなって、 やる気を持て余しているのではないかなあ。 お気の毒です。
 兄上がやっつけた敵の数は 半端ではありません」
 そう言って、 カムライのほうを 痛ましげに見やった。

「今日は、 こんなにも美しい姫君に お会いできて、 本当に楽しかった」
 優しい微笑を残して、 ツクヨリは去った。

 さらに短い演目が一つあったので、 最後まで観賞して ユキアも劇場を後にした。
 カムライには 返事をしないままになってしまったが、 翌日は 王家のお茶会に呼ばれている。
 また 会うことになるだろう。

 二人の 『運命の出会い』 は、念入りに 段取りが出来ていた。



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by まとめwoネタ速neo on 2012/05/31 at 18:26:13

 夕方から始まる祝賀興行には、 大勢の観客が 続々と集まってきていた。 満席の客席が ほぼ埋め尽くされたころ、 ユキアも 高く張り出した貴賓席に着いた。 右隣がカムライだ。 さ...

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