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薬種狩り 十の1

 小さな摩周は 危機から脱した。
 あとは 養生して体力の回復を待つばかりだ。
「息子の命を助けてくれて、 ありがとうなのだ」
「別に礼の必要は無い」
 玲があっさりと返答した。

 天狗苺のせいで起こった事だ。
 が、 明日妥流はこだわった。
「村長が直接礼を言いたいから、 立ち寄って欲しいと言っているだら。
 それから、 この先も旅を続けるなら これを持っていくよろし。
 迷子鈴だら。
 獣除けや 蛇除けにもなるだが、
 仲間とはぐれた時に鳴らせば、 音をたぐって見つけられる。
 あんた方向音痴だら。 めっちゃ役に立つだら」
 穂田里を見て、 ニカリと笑う。

 迷子鈴は 村の特産品である。
 周囲の地形や気象条件に左右されず、 不思議に真っ直ぐ音が届く。
 日陰谷に行った時、 穂田里の方向音痴が すっかりばれてしまった。
 秘密にするのは難しすぎる弱点である。
 一つずつもらい、 三人は 明日妥流の家を出た。

 摩周が持ち直したことで、 一瞬の気の緩みを突かれた。
 気がつけば、 明日妥流に まんまと教堂につれて行かれてしまった。

 教堂の扉を開けると、 村人たちでぎっしり埋まっていた。
「あっ、 九日目」
 言うが早いか 回れ右をした衣都だったが、 明日妥流が退路を塞ぐ。
「行っては駄目だら。
 せっかくだから、 ついでに 有難い導師様のお話を聞くよろし。
 教えの集いが終わらねば、 村長は耳栓を外さないだら」
 村長の耳栓は 誰でも知っている事らしい。
 衣都の逃亡は失敗した。

 三人の姿を ちらりと確認した導師は、 淡々と話し始めた。
 いつもの大声ではない。
「先日、 都から来た生意気な若者が 『教えの書』について分析したと言い、
 意見を言ってきた」
 いつもと違う導師の様子に、 会場にざわめきが走った。

「導師様に意見を言うとは、 根性があるだら」
「命知らずのごうの者といっていいだら」
 ひそひそと私語まで聞こえる。
 説教の時間では、 近頃とんと見かけない光景だった。
 現在の導師になってからは、 初めてかもしれない。

 導師は 気にする風でもなく続けた。
「『教えの書』には 『遠ざけよ』という言葉が百八ある。
 しかし、 『心を開け』という言葉は それより一つ多く、 百九ある。
 『教えの書』の真意は 後者にあるのではないか という意見なのだら」
 どういう展開になるのだろうと、 聴衆はかたずをのんで見守っていた。
 全くいつもとは違う。
 種類が異なる静寂が支配した。

 と、 次の瞬間、
 導師の大声が 聴衆の鼓膜を容赦なく襲撃した。

「だが、その青年は間違っているだら!」



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