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薬種狩り 九の4

青緑茸あおみどりたけがあれば、 助けられる》

 その場にそぐわない 陽気な声を上げたのは天狗だった。
 もの問いたげに振り向いた衣都に応えて 説明する。
《少しだけ緑色がかった 青いちっさいきのこだ》

「そんなの、 聞いた事が無いぞ。 衣都は知っているか」
 穂田里が 大声で反応した。
 衣都は かぶりを振る。

《土気の病だけではなく、 いろんな病にもよく効く薬だが、
 んーと、 五、 六十年ほども前になるかな、 むやみに採りすぎて絶滅した。
 青緑茸があれば、 駄狗の連れ合いも助かっていただろうに。
 あの男が 薬種を探すようになったのも、 それがきっかけだ。
 駄狗だなんて くそったれな名前を名乗るようになったのも、 それからだ》
 荷を背負って運ぶしか能のない馬が 駄馬なら、
 走り回るしか能のない自分は 駄狗だ。
 そう考えたのだろう。 まともな名前を捨てた。

 衣都が 目を見張った。
 直接聞いた事はなかったが、 ある事に思い当ったのだ。
 駄狗は 薬種をけっして採り尽くさなかった。
 どんなに不作で収穫が無くても、 必ず次の年の為に残すと決めていた。
 希少な薬種を 高値でたくさん買おうと持ちかける者があっても、 一切応じなかった。
 その理由が 初めて分かった。

 草楽堂と取引するのも、 左右衛が無理を言わないからだ。
 毎年、 駄狗は 質の良い薬種を 大地が許してくれる分だけ 黙々と集めた。
 衣都は、 薬種狩りは 危険だが地味な仕事なのだと知っている。

「もう無いのか。 だったら どうにもならないだろうが」
 衣都の肩口に向かって 不機嫌に怒鳴りだした穂田里を、
 明日妥流、 押希里、 まじない師が ギョッとしたように見る。
 隅で丸くなっていた柚希里が、 緑色の瞳をまん丸に開いて 穂田里と衣都を見つめた。

《この隠忍の里は、 少なくとも百年以上閉ざされていたのだ。
 もしかしたら 残っているかもしれんじゃないか。
 聞いてみろ》
 天狗の指摘に 半信半疑ながら、 期待を込めて聞いてみれば、

「青い茸だば 日陰谷にぼこぼこ出てくる。
 色はきれいだが 気味が悪くて、 食ってみる気にもならないだら。
 それがどうした。
 摩周が苦しんでいるというのに、 茸鍋の催促か。
 馬鹿にするにもほどがあるだら。
 生憎だったな。 秋が深まらねば、 生えないだら」
 押希里が 頭から火を噴きそうだ。

「あっ」
 助けられると思ったのもつかの間、 穂田里はがっかりした。
 今は、 まだ夏の終わりだ。
 言われてみれば、 なるほど茸の季節には早すぎる。

 だが、 天狗は上機嫌だった。
《おお、 残っておったか。
 今度こそ 採り尽くさぬように、 よくよく村人に注意しておけよ。
 ここにしか残っておらん。 貴重な薬種だ》

「いくら貴重な薬種でも、
 今 手に入らなければ 摩周を助けられんじゃないか」
 穂田里の 独り言に近い呟きを聞いて、
 天狗の声が聞こえていない連中にも、
 おぼろげながら 青緑茸が摩周を助ける薬になるらしい、 と分かりかけたようだった。
 明日妥流一家が 一瞬明るい表情を見せたが、

「青緑茸の時期までは もたん」
 まじない師の静かすぎる言葉で、 見る間にどん底に沈んだ。

《こらこらこら、 早く青緑茸を採りに行かんかい。
 地面を掘れ。
 根っこも青いから、 すぐに判る》
「日陰谷に案内してくれ!  青緑茸の根っこを探す」

 茸の菌糸を 根っこと言って良いものかどうかはともかく、
 降って湧いたような希望に、 にわかに騒然となった。




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