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薬種狩り 九の3

 声を掛けたが 返事が無かった。
 怪我の様子を考えれば、 摩周が まだふせっているはずだ。
 留守にしているはずはないのだが、 と首をひねり、
 もう一度 声を張り上げようとした時、
 中から 呻き声に重なって 押希里の甲高い叫びが聞こえた。

 驚いて 扉を開けて入ると、
 初老の男の襟首えりくびをつかんで 睨みつけている押希里が、 さらに叫ぶのが見えた。
「なんで助けてくれないんだら。
 こんなに苦しそうなのに 何もできないとは どういう事だら。
 おまんは まじない師だら。
 このくらいの怪我を治せないでどうするだら。
 なんとかするよろし」
 陽気な女が 血相を変えて詰め寄っていた。

 傍で寝ている摩周は、 額にびっしりと汗を張りつかせ、
 苦しげに呻きながら 小さな体を小刻みに震わせて、 痙攣けいれんを起こしはじめている。

「運が悪かったのだら。
 土気つちけにやられている。
 こうなったら、 可哀そうだが 効く薬はないだら。
 抱きしめて、 少しでも楽に送ってやるしかないのだら」
 まじない師は 乱暴に揺さぶられても、 痛ましそうにうつむくだけだ。
 何が起こっているのかを知った 穂田里と玲が 摩周に近づこうとしたが、
 明日妥流が立ち塞がって 押し戻した。

 落ちくぼんだ目が、 暗い光を鋭く突きさしてくる。
「おまんらを泊めたりしたわいが 愚かだっただら。
 息子に近づくな! 
 おまんらのせいだ。 出てゆくよろし。
 …… こんなもののせいで…… う、 うっ」
 明日妥流が 力いっぱい投げてよこしたのは、 すでにしおれて枯れた植物だ。

 天狗苺? 

 反射的に受け止めた穂田里が 目を輝かせたのは、 しかし、 一瞬だった。
 育ちの悪い草苺だ。
 日当たりが悪かったのだろう。
 痩せた茎と 変形した葉が 天狗苺に似ていなくも無かったが、
 慣れた目からは ただの草苺でしかなかった。

「まさか、 これを……」
「摩周が握って 離さなかったのだら。
 迷子鈴も持たずに 飛び出して行きおってからに、
 しかも、 こんな怪我までしおってからに……。
 おまんらさえ泊めなければ。 くそっ」

 悔しさを吐き出すかのように、 追いだそうとする明日妥流に、
 三人は 逆らう事が出来なかった。
 痛みを訴えて 苦しそうに呻く摩周の声が、 か細く、 時折 大きくうねって、
 重い部屋の空気を震わせた。

 と、 押希里が まじない師を見事に突き飛ばすや、 三人にすがりついた。
「都の典薬寮から来たんだら。 摩周を助けてくれろ」
 明日妥流が止めようとするのを ものともせず、
 迷わず 少年のもとへ強引に連れていった。
 最強なのは、 押希里だった。
 明日妥流をひとひねりだ。

 誰のせいだとか、 誰が悪いとかは どうでもいい。
 助けられる可能性があるのなら 何でもする。
 藁にも、 悪魔にだってすがりたい。
 そう押希里の気迫が語っていた。

 しかし、 穂田里と玲にも 為すすべは見つからなかった。
 じっくりと診るまでもない。
 まじない師の診立みたては 間違っていない。
 知っている限り、 治療法はなかった。



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