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薬種狩り 九の2

 導師が おごそかに頷くのを見て、 玲は続ける。
「悪を遠ざけよ。 暴力を以って いさかいの解決を図ろうとする者を遠ざけよ。
 慢心を遠ざけよ。
 繰り返し書かれた『遠ざけよ』を数えてみたら、 百八もあった。
 九日毎に 村民がうんざりするほど聞かされている言葉だ」

 導師は片眉を上げ、
 「数えたのか」 とあきれ顔で答えた。
「客観的に資料を分析するには、
 鍵になるものを見つけて 具体的に数値化し、 検討するというのも、
 いわゆる一つの方法論だ。
 それはともかく、 もうひとつ 繰り返し出てくる言葉があった。
 たすけを乞う物があれば 心を開け。
 真実を知ろうと尋ねる者があれば 心を開け。
 美しきものに 心を開け。
 善きものに 心を開け。
 共に生きる者に 心を開け。
 何気なく書かれて目立たないが 『心を開け』は百九あった。
 一つ多い。
 思うんだが、 隠忍の一族は 心を開いても良いのではないか。
 琵琶妥流の本当の想いは、 こっちにあるのではないか。
 だって…… 一つ多い」
 最後の一言は、 静かな声だったが、 力に満ちていた。

 導師から返ってきたのは――
「偉そうに分析とか言いながら、 結局、 理論にもなっていないだら」
 くるりと背を向けて、 教堂に入ってしまった。

「穂田里、 君の出番だ。
 村人を全員、 身動きが出来ないように出来るか」
 玲の目が本気だ。
「うん、 やっちゃってもいいのか?」
 穂田里が ニカッと笑った。

「死者の森には、 なるべく行きたくない。
 教えの書には ところどころに 妙な記述がある。
 『海は 大きな水たまりではない。 なめるな』 とか、……」
「とか?」
「『死者の森は 人を喰らう。 近づくな』 とか……」

「………………よし!  全員片付けよう。
 確かに、 海は 大きな水たまりじゃない!」

 隠忍の一族は 砂漠の民だったという。
 隠忍の里は 海から遥かに遠く離れている。
 この地に流れ着くまでに、 各地を転々としたのかもしれない。
 途中で、 海の他にも 色々と見ている可能性が高い。
 死者の森に出くわしたことは、 充分に考えられる。

 いくら穂田里でも、 森を相手に戦った経験は無い。
 人間と戦う方が解りやすい。
 穂田里は 即座に賛成した。

「出来るのか」
 衣都が ぽつりと言った。

「まあ、 だいたいな。
 てこずるとしたら、 明日妥流だ。 あいつが一番強そうだ」
 人柄は優しいが、 体力気力とも 並はずれた感がある、 と穂田里は見抜いていた。
 すぐに突っかかって来る若者より、 戦うとなれば 手ごわいだろう。
 ヘタをすると五分だ。

「では、 明日妥流の家に行こう。 一番強いのを残すと面倒だ。
 怪我をしている摩周の様子も 確かめた方が良い」
 玲も同意して、 とりあえず 明日妥流の家に向かう。



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