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薬種狩り 七の5

「無理にほじくり返した 百年も前の噂だ。
 調べてみるまで、 こんな場所に住んでる人間が居るとは 想像もしていなかった。
 あなた達は すんごい所に住んでいるんだなあ」
「調べたのか」
「うん、 めったに無い貴重な薬草を探している。
 まだ探していない場所を調べた中の一つが ここだ」

「『援けを請うものがあれば、 心を開け。 持てる物を与え、 為せる事を為せ』
 と 教えの書にもあるのだら。
 別に歓迎している訳でもないだが、 何でもかんでも追い返しはしないだら。
 もっとも わいが知る限り、 よそ者が来たのは おまんらが初めてだがな」
「うんうん、 良い人たちなんだな。
 たらふく食わせてもらったのに、 金が用をなさないとは 困った。
 力仕事とかあったら 言ってくれ」

 穂田里と明日妥流の会話を 黙って聞いていた玲が、 ふいに口をはさんだ。
「教えの書とは何だ」
「一族を導く 有難い本なのだ。
 わいらはその昔、 砂漠の民だっただら。
 食べる事が 生きる事。 闘いに勝つ事が 生き残る事。
 そんな厳しい土地で 祖先は戦に負け、 その地を追われただら。
 流れ着いたのが この国よ。
 安住の地を見つけたと思ったらしいが、 それが大間違い。
 この国人らは 皆おまんらみたいに真っ直ぐな黒髪に黒い目、
 肌の色も わいらとはどこやら違う。
 初めは 珍しがられているだけであったが、 だんだん うとまれるようになったのだら。
 ついには ひどくいじめられるようになり、 この地に逃げてきたのだら。
 その時、 一族を率いていたのが 琵琶妥流びわだる様。
 ここは、 幸い 生きていくに足る自然に恵まれてはいるものの、 他からの助けは一切望めない。
 数少ない一族だけで 全てをまかなわなくてはならなかったから、
 そりゃあ 苦労の連続だっただら。
 そんな時、 一族が力を合わせて よりよく生きる為の導きの書を
 琵琶妥流様が 書き残してくださっただら。
 わいらは この書を頼りに 生き延びてきたのだら」

 家族が食事をし、 歓談もする部屋の隅に 小さな机がある。
 その上に 無造作に置いてある本を取って、 明日妥流は玲に見せた。
 きれいとは言えない字で びっしりと何やら書き込まれている。
 紙の質も良いとは言えず、 何度も読まれているらしく、 手垢で汚れていた。

「汚い字だ。 下手糞な字だ。 そうとう酷い」
 パラパラとめくってみた玲が 素直に感想を述べた。
 あまりに正直すぎて ボロクソな言いようである。

 人の良さそうな明日妥流も、 さすがに恥ずかしそうになって 反論した。
「今は、 もう少し 上手になっているだら。
 これは 子供の頃に わいが書き写したのだ。
 ここいらの子供は 教えの書を書き写すことで 字を覚える。
 柚希里と摩周も書いているのだ。
 摩周の字は わいにそっくりだが、 柚希里の字は きれいだぞ。 見るか」

「今はいい。 読むのには時間がかかりそうだ。
 後で貸してくれ」
 どんなものにしろ、 本を読みだしたら止まらなくなる事は 自覚している。
 本気で読む気があるらしい玲の様子に、 明日妥流は 満足そうに頷いて話題を変えた。

「ところで 薬草を探していると言っていたようだが、
 どんな薬草を探しているだら」
「都では 天狗苺と呼ばれている。 これだ」
 問われて、 玲は 精密に描かれている絵を出して見せた。

「ほほう、 わいらの描き方とは違っているが、 上手いもんだら。
 草苺だら。
 これなら その辺のやぶに いくらでもあるのだら。 何に効くだか」
「良く似ているが、 草苺ではない。
 草苺は 見かけが草に見えても 小さな低木だが、 天狗苺は 正真正銘の草だ。
 白い花と 甘酸っぱくて美味しい実をつける草苺とは違い、
 薄紅色がかった花で、 実は 美味くもなんともない。
 よーく見ないと見分けがつかないくらい似ているけど、 全くの別物だ」

 明日妥流の背中から忍び寄り、 肩越しに覗き込んでいた摩周が 振り向いて訊いた。
「ちっこいのも いっしょに探しているだか」
 衣都が頷くと、 さらに真剣な顔で 絵を覗いていた。



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