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薬種狩り 七の3

 居心地の悪い沈黙を向けられて、 さてどうしようか と顔を見合わせた二人の頭上から、
「うちに泊まるだか?」
 と、 とぼけた声が降ってきた。

 見上げれば、 しわだらけの かたまりが見下ろしている。
 皺の中に 目鼻と口があるのを見分けるのには 注意力が必要だった。
 櫓の上にいた 小太りの方だ。

「おお、 有難い。 頼む。 金はちゃんと払う」
 皺だらけと穂田里の のんびりした会話に、 村人の呪縛がやっと解けた。
 緊張の中にも、 苦笑が漏れる。

「見ての通り、 ここは何処とも行き来が無い。 金は役に立たないのだら」
 先頭にいた男の言い分に、 ざわめきがさざ波のように広がった。
「俺の家に泊めてやるのことよ。 長の家は 止めておくのがよろし」
 今度は、 はっきりとした笑い声がいくつか上がった。
 皺だらけは この村の長らしい。

「俺は穂田里。 きれいなのが玲。
 可愛いのが…… ん?  衣都はどこだ」
「わいは 明日妥流あすだる
 押希里おしきりの夫、 摩周ましゅう柚希里ゆきりととなのだ。
 こっちだら。 ついて来るよろし」
 夕日を飲み込んだ例の山を右に見て、 明日妥流は速足で歩きだした。

 ついさっき 日が沈んだ。
 こんな山の中では、 月が出なければ、 間もなく 自分の足元さえ見えなくなるだろう。
 衣都の姿が見えないのが気になるが、
 その衣都が居ない状態で、 見知らぬ土地の夜は どうにもならないのも確かだった。
 あとで、 明かりを借りるなり、 探してもらうなりしよう。
 とりあえず 二人が後を追うと、
 村人たちも ざわめきながら それぞれ家路に向かっていく。

「あんなのを村に入れて、 大丈夫なのか。 髪が黒くて 真っ直ぐだったぞ」とか、
「肌の色が違う、 わいらより赤っぽい、 いや茶色っぽい」
「一人は白かった」とか 言っているのが聞こえる。
 あからさまな不満の声も少なくない。

 明日妥流について しばらく歩いていくと、 いつの間にか衣都が居た。

《なるほどな。
 毎日祈りを捧げているから 霊気が溜まったのか、
 霊気を感じたから 祈るようになったのか、
 あの山は この村人たちの信仰の対象になっているらしい》
 のんきに言う天狗の声に、 穂田里が気付き、 ほっとして返事を返す。
「へえ、 あの山が御神体なのか」

 天狗に返事をしたつもりだったが、
 明日妥流は 自分に問いかけられたものと誤解したらしい。
 足をゆるめることなく、 律儀に返答を返した。
「毎日、 夕日に感謝の祈りをささげるのだら。
 寝床山ねどこやまは神聖な山だが、 祈るのは お天道てんとう様なのだ」

 着いた先は、 古びてはいるが、村に在る他の建物よりも比較的大きな家だった。
 入口を入れば、 部屋の中には 既に明かりが灯っていて、
 出迎えた女の子と男の子の 吃驚した顔があった。

「こんにちわ」 と穂田里が挨拶すると、
 慌てて明日妥流の後ろに隠れた。
 十歳になるやならずの女の子は、 翡翠ひすい玉のように深い緑色の瞳をみはって、
 父親の背中から覗き見ている。
 それより小さい男の子は、 いったん隠れた背中から飛び出し、
「ヘンなやつ!」 一声叫んで、 また隠れた。
 燃えるように赤い髪をしている きかん気の強そうな子だ。

 奥から女が出てきた。
 明日妥流の妻、 押希里である。
 一瞬固まった後、 諦めたように ため息をついた。
「いくら珍しいもの好きでも、 うちには小さい子供がいるっていうのに。
 まっ、 連れてきちゃったもんは 仕方ないだわ。 こっちへ来て座んない。
 晩飯はまだだら。 急いで三人分追加するから、 少し待つよろし」



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