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薬種狩り 六の7

「おお、 触れるのか。 それでは俺も」
 つかもうと手を伸ばした穂田里の鼻先を、
 天狗は 残った下駄で 容赦なく蹴飛ばす。
 大きなくしゃみが 立て続けに四つ出た。

「へえ、 天狗に触ると くしゃみが出るのか」
 少し信じかけた玲に、 衣都が答えた。
「違う…… と思う」
 あっさりした返事を聞いて 冷静さを取り戻した玲は、
 危ないところだった、 見えもしないものを簡単に信じるところだった と反省し、
 手放そうとした不信感を取り戻した。
 二人にからかわれているのかもしれない。
 そう考えると面白くないが、 ムキになるのも悔しい。
「ふん」
 無関心を装いはしたものの、 横目で穂田里を睨んだ。

「あれっ、 天ちゃん。 何処に行くんだ」
 穂田里の動作につられて、 うっかり足元に目をやれば、
 草が 一直線に波立った。
 穂田里の言葉がなければ、 小さなつむじ風が吹き抜けたように見えたかもしれない。
 しかし、 玲にも 見えない何かが走り抜けたような気がした。

「わっはっは、 自分で拾いに行くのか。 けっこう間抜けだな、 天ちゃん。
 ハ、ハックション、ハックション、 クソ」
 今度は 草が逆方向に揺れる。
 またもや一直線だ。

「拾いに行かなきゃならないんだから、 むやみに下駄を飛ばすなって。
 天ちゃんだって面倒くさいだろ。
 ………… 天ちゃんと呼ぶのが気に入らないのか。
 ぐっさんの方が良いか?  ハックション」

 そんなこんなで 山歩きを再開したが、 玲が考えていたほど 下りは楽ではなかった。
 おまけに 筋肉痛までし始めたが、 それを言えば からかわれると思い、 むきになって頑張った。
 穂田里の手を借りる事態は減ったが、 迷子になる心配はしなくても良さそうだ。
 よほど天狗が気に入ったのか、 ぴたりと衣都に張り付いて、 よそ見をしなくなったのだ。

 山頂を越えてからも 草木の様子は相変わらずで、 特に変わったものは見当たらない。
「見つからない」
 衣都が ぽつりと言った。

「天狗森では群生していたらしいから、
 あれば見つけやすいと踏んでいたのだが、 簡単にはいかないな。
 第一広すぎる。
 時間がないのに、 たった三人だ。
 僕は 頭脳労働を担当しよう。 肉体方面は 二人の活躍に期待する」
 連山に囲まれて うっそうと茂る山肌を見ただけで、 玲はさじを投げた。
 広さが、 天狗森どころの騒ぎではない。
 見渡す限り 圧倒的に草木が生い茂って 広がっている。
「やっほーっ。 おお、 こだまだ。 広いぞ」

 能天気な穂田里を無視して、 衣都が言った。
「迷子…… 見つけられない」
「……」
 玲は絶句した。
 此処で 穂田里を野放しにするわけにはいかない。



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