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薬種狩り 六の2

「まだ学生だ。 だが、 いずれ典薬寮を動かす身分になる」
 玲は 堂々と返した。

 二人の会話を まったく気にすることなく、
 無遠慮に近づいた穂田里は、 衣都のツンツン頭を ワシワシとかき回した。
「俺は穂田里だ。 よろしくな。
 いっちゃんは 声変わりもまだなんだな。
 安心しろ、 俺が守ってやる。 兄貴と呼んでいいぞ」
 迷惑そうな気配をわずかにちらつかせて、 衣都の視線は 二人の背後に向けられた。

 馬が三頭 駆け寄って来る。
 二頭には それぞれ若い男が乗り、 一頭は鞍だけ乗せた空馬だ。
 蹄の音に振りかえった穂田里が 大声を上げた。
兄者あにじゃ麦兄むぎにいまで。 どうしたんだ」

 馬上に居たのは、 長兄の稲城いなぎと 次兄の麦勝むぎかつ
 二人とも迷子にならず、 武官として 順調に出世街道を驀進ばくしん中である。
「冬枯病が五人出た。
 話は聞いている。 無駄にできる時は無い。
 行ける所まで送っていくよう 帝から命じられた」
 稲城から申し出た事だったが、 そんなのはどうでもいい。
 事態は 明らかに差し迫ってきていた。
 いつもは穏やかな麦勝の目が、 鋭い光を帯びた。
「初雪が降る前に……」 天狗苺を探さなければ、
 その五人は 確実に死ぬ。
 過去の例を考えれば、 病人は これからも日増しに増えるだろう。

 穂田里は 衣都の荷を取り上げて、 自分の荷物と手槍をくくり付けて背負うと、
 月毛つきげの馬に飛び乗った。

「ちょっと遠いから 助かる」
「迷子になるなよ」
 心配になった玲に、 麦勝が大真面目に請け合った。
「一番賢い馬を選んだから 大丈夫です。
 我らから離れず付いて来るよう、 よーく言い含めてあるから」
 さすがは兄弟である。
 弟より馬を信用しているらしい。

 差し出された稲城の手につかまって、 衣都は ひらりと馬の背に跨った。
 玲は 麦勝に力ずくで引き上げられ、 これも馬の背に納まった。

 目指すは 東にそびえる連山。
 越えれば 〈隠忍の里〉がある。
 さらに奥の山を越えた先には、〈忘れられた村〉があるはずだった。



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