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薬種狩り 五の2

 勇んで調べた結果が これである。
 やけっぱちな気分が 立ち上って来るようではないか。
 「……らしい」ばかりの 怪しい報告書を読んだら、
 行きたくない と思って当然だ。

 朝廷にあって、 病気や怪我を治療するのが 典薬寮の本来の役目である。
 ほとんどが都育ちか、 あるいは 地方でも豊かな土地の出身者でもある。
 命懸けの冒険旅行に向いた人材は 居ない。
 かといって、 武官や徴税吏では 天狗苺を見分けられない。

 古漬けを通り越して、 もはや腐りかけた典薬頭のもとに、
 草楽堂主人 左右衛が面会を求めている と下官が告げに来た。
 呼びもしないのに 左右衛の方から典薬寮に押し掛けてくるのは珍しい。
 嫌な予感がする。
 もうこれ以上勘弁してほしい と思うが、 逃げるわけにもいかないのが 責任者の辛いところだ。
 会いに出た。

 いつの間にか すっかり汗ばむ季節になっていた。
 風を通す為か、 外部との接見に使われる小部屋は 大きく開け放たれ、
 天狗苺の件さえなければ、 さぞや気持ちが良いだろうと思われた。

「重要なお話がございます」
 大店おおだなの主でありながら、 ともすると 気ままな道楽者に見えかねない左右衛が、
 今日ばかりは しごく真面目な顔で切り出した。
 いよいよもって やな感じである。 
 聞きたくない。

「…………で?」
 聞き逃してくれないだろうか、 と 吐息に似た問いかけを絞り出した。

「今朝ほど、 管虫くだむしという医者が 天狗苺を求めに来ました」
「うわああああああああああ…… ふ…… ゆ…… が…… れ…… 病…… か」
 壊れかけた典薬頭の様子を無視して、 左右衛が続ける。

「見た目は、 医者というより 重病人にしか見えない
 ガリガリに痩せた 顔色の悪い変態ですが、 腕は良い。
 見立て違いではないと思います。
 地方からの注文に用意した 乾燥物の残りがあったので 渡しましたが、
 在庫は もうほとんどありません」

 いつもの年なら、 一番勢いよく生い茂るこの時期に 刈り取り、
 各地に送る為に 乾燥させる作業に入るのだ。
 在庫が極端に少ない時期に当たる。

「管虫先生も 気が付きました。
 うちの店に来る前に、 ご自分で天狗森に行き、 採取しようとなさったようです」
 都付近の医者でも 同じことをする者はそれほど多くない。
 無料で手に入るとはいえ、
 生の天狗苺を 確実に見分けられる医者ばかりとは限らないからだ。

「混乱を避ける為に 先手を打っておく必要があると思い、 お知らせに参上しました。
 もはや 一刻も猶予はありません」
「……気を失っても良いか」
「駄目です。 そんな暇はありません」



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コメント
1578: by lime on 2013/08/24 at 11:21:54 (コメント編集)

うおっと。
管虫先生登場ww
典薬頭の反応が、面白すぎです。

1579:Re: lime様 by しのぶもじずり on 2013/08/24 at 13:48:05 (コメント編集)

管虫先生を使いまわしちゃいました。
そのうち、手塚治虫作品での「ヒョウタンツギ」的存在になってたりして(笑)
あ~らら。

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