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薬種狩り 四の6

 娘は 無表情で上がると、 左右衛が指差した場所に 正確に腰を下ろした。

「この子は 駄狗の一人娘、 衣都いつ
 ずっと駄狗と一緒に 薬種を探す旅をしておりました。
 駄狗のやり方を知っているのは、 この子だけです。
 代わりになるとしたら この子しかいないでしょう」

 玲は 面白いものを見たと思った。
 一応 娘らしく薄紅色の着物を着ているが、
 本人が喜んで着ているようには 全く見えない。
 誰かに無理やり着せられたようで、 全然しっくりしていない。
 短く切られた髪は ザンバラに乱れ、
 男の子のような 色気のない立ち居振る舞いをしている。
 目鼻立ちは せっかく可愛らしいと言えるのに、 愛嬌のない仏頂面ぶっちょうづらだ。
 ちょっと気に入った。

「天狗苺を探している。 手助けが欲しい。
 天狗森を隅から隅まで探してみたが、 見つけられないでいるのだ」
 玲にしては 穏やかな言い方だ。
 衣都は、 人形のように作り物めいた 美しい玲をまじまじと眺めた。

 玲は おのれの容姿を自覚している。
 女からはもちろん、 男からも ちらちらと盗み見られるのは日常茶飯事だ。
 しかし、 真正面から ここまであからさまに見つめられたのは、
 親族以外では たったの三度目だ。
 気に入った。

「天狗森は、 死んだ」
 衣都は一言で答え、 用は済んだとばかりに口をつぐんだ。

「いっちゃんや。
 駄狗が相手なら それで通じるんだろうが、 他の人間にはそれじゃあ分からないよ。
 ちゃんと分かるように説明しておくれ」
 左右衛に促され、
 衣都は 膝に置いた拳に力を入れて 唇を尖らせて考えていたが、
 ポツリポツリと言葉を吐きだした。

「うろのある大きな古木が、 切り倒された。
 天狗森のヌシだ。
 ヌシが死んだから、 普通の森になった。
 特別はいなくなった。 天狗苺は無い」
「そういうことか」
 左右衛だけが頷いた。

「……父さんは、 ヌシを守ろうとして、 殺された」
「駄狗なら 一目で分かったろうからね。 必死で止めようとしたんだね。
 駄狗が 訳もなく乱暴を働くはずがない。
 理由があるとは思っていたが、 私は そこまで考えが至らなかった。 ……ごめんよ。
 あっ、 古木を切り倒したのは樵だったよね。
 どうして彼らは ヌシと分からなかったのだろう。
 専門家じゃないか」

「知ってた。
 ヌシを倒さなければ、 あの森は拓けない」
 入口から 真っ直ぐ古木に伸びた伐採跡は、 ヌシを切り倒して運び出す為の道だった。
 ヌシの居る森は 開発しようとする者にとって厄介だ。
 なかなか人間の思い通りにはならない。
 天狗森がそうだとは限らないが、 時に、 逆らって 牙をむく事がある。
 切り拓く為に 最初にしなければならない事が、 森のヌシを倒す事だったのだ。
 樵たちは 注文通りに良い仕事をしたといえる。



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コメント
1575: by lime on 2013/08/21 at 07:14:28 (コメント編集)

面白くなってきましたね。
いっちゃんと玲の対面が、すごくいいです。
映像がすごく浮かんできますね。
物語もわかりやすくいい意味でシンプルなぶん、入り込みやすいし。
すっごく楽しみです^^

1577:Re: lime様 by しのぶもじずり on 2013/08/21 at 12:58:08 (コメント編集)

ありがとうございます。
三人が主人公のつもりで書きました。
無口ないっちゃんにてこずりました。

ジョジョとか、ものすごく語りますよね。
あそこまで語っちゃう主人公を書くのは、苦手かも。でも無口も大変です。

これから、無口ないっちゃんを中心(?)に、お話が進んで行きます。
だいじょぶか。だいじょぶなのか、わたし。
作者のスリルをお楽しみください(笑)

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