RSS

薬種狩り 四の4

 天狗苺の生息状況を調査し、
 最も適した地域を保護区に指定して、開発の手から逃れさせなくてはならない。
 典薬寮を上げて、 まずは現地調査を開始した。
 ところが……。

「駄目です。 一株も見つかりません」
「枯れた残骸と思われるものしかありません」
 採集を命じて 天狗森に行かせた学生たちは、
 誰ひとり 天狗苺を見つける事が出来なかった。
 調査研究をするどころではない。
 すでに 調査対象そのものが見つからない。
 穂田里が大量に採取してから、 まだひと月ほどしか経っていないのに 訳が判らなかった。

「穂田里、 まさか君は 根こそぎ掘り尽くしてきたんじゃないだろうな」
「とんでもない。
 一度だけ うっかり奥には入っちゃった時に、 わんさか生えているのを見ました。
 俺が採ったのは、 おおむね森に入ってすぐの 分かりやすい場所に生えていたものばかりです。
 あんなにたくさんあるものを 採り尽くせるはずがない」
「では 何故消えたのだ」
「さあ、 俺に訊かれても、 さっぱり」

 こんな状態では、 冬枯病が出たら大変な事になる。
 一世一代の大仕事をやっつけて、 ほっとしたところだったというのに、
 さらに大きな難題が待ち構えていたと知り、 典薬頭は頭を抱えた。
 なけなしの気力を使い果たしてしまったのか、
 引き続き 天狗森の調査を命じるしか 方策を思いつかなかった。

 だが、 典薬寮を上げての捜索にも関わらず、 一株として見つからなかった。
 花の咲く時期に入った。
 薄紅色の花は 森の中では目立つはずだ。 見落としようがない。
 天狗苺は 森には無い。

「本当に 天狗森にしかなかったのかしら。
 こうなったら 全国的に指名手配してみたら。
 資料庫には 絵があるでしょ。
 絵師に たくさん描き写させ、 詳しい説明文も付けて 各地方に送り、 探させましょう。
 見つからなければ 困るのは都ばかりではないんだから。
 ほらほら、 責任者がしなびた沢庵みたいにしょぼくれていて どーすんのよ。
 気合よ、 気合!  元気イッパーツ!」

 典薬助の提案も、 気合も、 功を奏する事はなかった。
 問い合わせに応じて、 いくつか送ってきた所があったが、
 似て非なるものばかりだった。
 どれも よく見かける野苺の一種だ。

 生の天狗苺を見分けられるのは、
 都近くに住み、 なおかつ薬草に精通している
 一部の人間に限られる事が 改めて明らかになっただけだった。
 天狗苺が何処からも発見される事がないまま、
 典薬頭は 三年前の古漬けのようにしなびきった。
 お茶漬けにするのも遠慮したい。

 時は容赦なく過ぎて、 すでに夏に突入していた。

 そんな父親の姿に 小さく舌打ちをして、 玲は立ち上がった。
 行先は 天狗森ではない。



戻る★★★次へ

 
トラックバック
トラックバック送信先 :
コメント
▼このエントリーにコメントを残す

   

プロフィール

しのぶもじずり

Author:しのぶもじずり
とりあえず女です。
コメントを頂けると、うれしいです。

最新記事

最新コメント

カテゴリ

検索フォーム

いらっしゃ~い

らんきんぐ

よかったら押してね
 にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ にほんブログ村 小説ブログへ
 

リンク

このブログをリンクに追加する   リンクフリーです

おきてがみ

FC2以外のブログからお越しの方、クリックで足跡が残せます。
「ことづて」は機能していませんので、ここにはコメントは残せません。

RSSリンクの表示

QRコード

QR

月別アーカイブ

フリーエリア