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薬種狩り 四の3

 中天にかかった太陽が、 薬草園に燦々さんさんと降りそそいでいた。
 駆けつけた典薬頭の目にうつったのは、
 見渡す限り茶色く変色し、
 地面にへばりついている わずかばかりの枯れ草の残骸ざんがいだけだった。

「御覧のとおりの有様です。
 前回いらしたときには 何事も無いように見えましたが、
 その翌日から みるみるうちに様子が変わりました。
 非常事態だと感じて、 急ぎ文を送ったのですが、 お忙しかったようですね。
 私の判断で、 いくつかに区切って水やりを変えたり、
 日除けを作ったり、
 何種類かの 違う肥料を与えて見たり、
 消毒したり、
 土を入れ替えてみたり と思いつく限りの事は試したのですが、
 どれも効果はありませんでした。 全滅です」

「ううむ、 生き残った株はないのか」
 典薬頭の額に浮かんだ汗は、 日差しのせいばかりではない。

 出仕した途端、 とどこおっていた雑務に追われ、
 文を読むのが遅くなってしまった。
 読んですぐに駆けつけたのだが、 もうなすすべがない。
 あまりに間が悪かったとはいえ、
 自分が目を離している間に全滅するとは、 なんとも嫌な感じだ。

「はい、 残念ながら、 一株も」
「原因に心当たりはないか」
「全く解りかねます」
 薬草園の管理を長年任されている男は、 力無く首を振った。

 薬草を育てる事に関しては 誰よりも詳しいこの男が、
 手だてを尽くしても 上手くいかなかったのだ。
 人の手で育てる事は 相当に難しいのだろう。
 不可能なのかもしれなかった。
「ともあれ、 原因を詮索せんさくしている場合ではないな。
 対策を講じなくては」

 冬枯病と呼ばれる病がある。
 頻繁に起こる病ではないが、 一人患者が出れば 次々と感染し、
 治療しなければ 致死率は確実に十割。
 暖かい季節に罹患りかんし、 軽い症状が続く。
 気温が下がり始めてから 重篤化じゅうとくかし、
 苦しみもがいたあげく、 その年の初雪と共に 患者の命を奪って消える。
 有効な治療はただ一つ。
 天狗苺を飲ませる事だけだ。
 他のどんな治療も効かない。
 そして、 天狗苺を採取できるのは、 天狗森だけなのだ。
 他の場所で発見された という報告は無い。

 こうして 典薬頭は、 急ぎ薬草園を後にした。
 内裏に向かうや 帝に直談判を申し込み、
 居合わせた強面こわもての大納言 剛押つよおしをねじ伏せて、
 延々と交渉を重ねた結果、
 天狗森伐採許可の 一時延期をもぎ取る事に成功した。

 日頃のとろとろした言動からは 考えられないような快挙を達成したのだ。
 研究一筋四十年 の生涯を通じて、 初めての画期的な大活躍だった。
 やればできる!



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