RSS

薬種狩り 三の6

 草楽堂は 暗く沈んでいた。

 夕闇が迫っているからでもなく、
 大戸を閉めて 店が営業を終えたからでもなく、
 不幸な匂いのする暗さだった。

「旦那様。 駄狗さん……が」
「どうした。 何かあったのか」
 出迎えた番頭に問えば、
「駄狗さんが、 死んでしまいました」

「馬鹿なことを言うんじゃないよ。
 危険な旅先でも死なない奴が、 よりにもよって 何故こんなところで
 ……本当なのかい?」
 左右衛に伝えたことで 張りつめていたものが切れたのか、
 力無く頷いた番頭の目から、 はらりと涙が落ちた。

 左右衛は意外な物を見るように、 目を一瞬見開いた。
 番頭と駄狗が 親しくしているのを目にした事は無い。

 駄狗が持ち込んだ薬種を 左右衛が番頭に渡す。
 番頭は まるであらを探すように こまごまと逐一確認し、
 端数まで きっちり計算した代金を 不機嫌そうに差し出す。
 駄狗は仏頂面で、 確かめもせずに懐にしまう。
 二人の接点は その一事に尽きる。

 生き方も考え方も 全く違う二人だ。
 話をしても合わないだろう と思われた。
 まさか 涙をこぼすとは 誰も思わなかったに違いない。
 傍から見れば 不機嫌にも見えた、 年に一度有るか無いかの無言のやりとりが、
 二人にとっては 互いの力量を信頼する あかしだったのかもしれない。

 長いため息一つをついて、 気持ちを立て直した番頭は、
 訥々とつとつと説明した。

 行き先と用件を言い置いて出かけた左右衛とは違い、
 血相を変えて飛びだした駄狗と 後を追った子供が戻らない事を気にして、
 店の者を一人 天狗森に行かせた。
 面倒を起こしていなければ良いが、 という軽い気持ちで 様子を見に行かせたつもりだったが、
 やっと戻ってきたのは、
 駄狗の死骸と 幽霊に間違えそうな物言わぬ子供だった。
 天狗森近くの人手を頼んで 運ばれてきた。

 駄狗は 力ずくで伐採を止めようと暴れたらしい。
 朝廷から許可が下りたのは、 都に近い場所から中心に近い一部であった。
 丁度、 役人が指定範囲確認の為 出張ってきていたところだったのは不運だった。
 大きな古木に斧を突き立てたきこりを 問答無用で投げ飛ばし、
 止めようとして飛びかかった樵の仲間たちを振りほどいて、
 殴り、蹴り、乱暴狼藉ろうぜきの限りを尽くして やめようとはしなかった。
 誰も 駄狗を止められなかった。
 業を煮やした役人が 遂に斬ってしまった。
 そういうことらしい。

 駄狗の強靭さが災いした。
 取り押さえられていれば、 命までは失くしていなかったろうと思われた。

「奥の離れに 寝かせました。
 ……とむらいの手配は…… 明日、 明日します」



戻る★★★次へ

 
トラックバック
トラックバック送信先 :
コメント
1559:管理人のみ閲覧できます by on 2013/08/13 at 19:31:09

このコメントは管理人のみ閲覧できます

1560: by lime on 2013/08/14 at 21:16:18 (コメント編集)

なんと、駄狗さんが。
ずっとレギュラーなんだと思っていましたが。
では、駄狗さんの意思を、いっちゃんが継ぐのでしょうか。
何か、ワケアリのような女の子ですね。

いっちゃんと穂田里。
どこで絡むのでしょう。
楽しみです^^

1561:Re: lime様 by しのぶもじずり on 2013/08/14 at 23:31:14 (コメント編集)

> なんと、駄狗さんが。
> ずっとレギュラーなんだと思っていましたが。
あっという間に殺しちゃいましたが、レギュラーっぽい存在感が出せたなら成功です。
すぐに忘れられると困るのです。

> では、駄狗さんの意思を、いっちゃんが継ぐのでしょうか。
> 何か、ワケアリのような女の子ですね。
>
> いっちゃんと穂田里。
> どこで絡むのでしょう。
> 楽しみです^^
もうちょっと待って下さいね。じき分かります。

▼このエントリーにコメントを残す

   

プロフィール

しのぶもじずり

Author:しのぶもじずり
とりあえず女です。
コメントを頂けると、うれしいです。

最新記事

最新コメント

カテゴリ

検索フォーム

いらっしゃ~い

らんきんぐ

よかったら押してね
 にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ にほんブログ村 小説ブログへ
 

リンク

このブログをリンクに追加する   リンクフリーです

おきてがみ

FC2以外のブログからお越しの方、クリックで足跡が残せます。
「ことづて」は機能していませんので、ここにはコメントは残せません。

RSSリンクの表示

QRコード

QR

月別アーカイブ

フリーエリア