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薬種狩り 三の5

 一方、 左右衛は大内裏に駆けつけ、 天狗森開拓許可の責任者に面会を申し入れたが、
 昼を大分過ぎてしまっていて、 高位高官はもとより 主だった官吏はすでに退出しまっており、
 やっと捕まえた下っ端官吏は 無駄に横柄おうへいなばかりで 役に立たない。

「朝廷が審議の上許可を出したのだ。 無理無理。 中止になどならない。
 おまえごときが安易に口出しする事ではない。
 顔を洗って 出直して…… も無駄だ。
 余計な事はせず、 家に帰って、 おしっこして、 うんこして、 寝てしまえ」
 それこそ余計なお世話だ。
 言われるまでもなく 毎日している。
 そんなことより 天狗森だ。
 簡単に諦められるくらいなら、 大内裏に押しかけてなど来ない。
 上奏文を出したりもしない。 暇な体ではないのだ。
 これは 都一、 否、 国一番の薬屋として、
 なにがなんでも 決してあきらめてはいけない事なのだ。
 左右衛は 切歯扼腕せっしやくわんして 大内裏を後にし、 典薬頭の屋敷に向かった。


 典薬頭は いわゆる研究馬鹿で、 世事にも 政治にも ほとんど通じていない。
 左右衛が訪れた時にも、 研究資料をまとめる為に 五日間こもりきりだったという。
 ちょうど一区切りが付いて、 部屋から出てきたところだった。

 さすがに事の重要性を瞬時に理解したものの、 手早く役に立つとはいかなかった。
「うー、 あれはどなたから出た話でしたかな。
 吾輩が知ったのは つい最近のことでしたが、 一年以上も前から出ていた話らしい」

 都は 東西に伸びて発展していた。
 北は 玉座を置く位置と古来から決まっている上、 清宸山が背後に横たわっている。
 南を塞ぐ形になっているのが 天狗森であった。

 確かに、 天狗森を伐り拓けば 都近くに大きな土地が出現する。
 だが これまで目をつける者が居なかったのは、
 天狗が住む神聖な森として、 長い歴史の間 人々にうやまわれてきたからだ。
 この世ならぬ不思議な植物が 跳梁跋扈ちょうりょうばっこする と昔話に伝えられ、
 時折、 入り込んだ無邪気な子供が、 見たと興奮して 大人たちをなごませる。
 都に近い所で育った者ならば、 おとぎ話と共に存在する森は、
 いつの間にか そこに在るのが当たり前になっているのだ。

「あれは いつの事だったろう。 大臣おとどに呼ばれましてな。
 天狗森で採れる薬草は 天狗苺だけなのか と念を押すように訊かれ、 その通りだと答えると、
 天狗苺とは どのような植物なのか、 生育が困難なひ弱なものなのか と続けて尋ねられた。
 採っても採っても いくらでも生えてきます。
 天狗森なら何処にでもあるから、 ひ弱というわけではなさそうです。
 そう答えた。
 重ねて 薬草園では育てているのか と聞かれたので、
 その必要はありません。 天狗森に行けば、 いくらでも採れますから
 困る事は無いのです。 と答えたのだ」

 すると、 大臣は 人手を出して薬草園を広げるから、
 天狗苺を栽培しろ と命じたのだった。
 薬草園を広げてもらえるのは ありがたいが、
 栽培できるとは限らないし、 理由が知りたいと言えば、
 天狗森の場所に 桃源郷を、
 この世ならぬような娯楽の街を作りたい と許可を求めに来た者があったという。
 初めは却下されたが、 太政官の中に 一人乗り気になったのが居た。
 他の高位高官たちを説き伏せ、 再度 朝議に掛けた。
 天狗苺を他に移して育てれば良い というのが言い分だ。

「無論 わしは反対したさ。
 育つかどうか確かめない内は 断固天狗森に手をつけるべきではない、 とな」
「薬草園に移植したのですか」
「うん、 した。 広げた分全部に移植した」
「で、 どうなりましたか」
「まだ半月ほどしか経っていないが、
 五、六日前にわしが見に行った時は 元気に育っていたようだった。
 だがなあ、 今まで どうして育てようとしなかったのだろう」
 典薬頭は 腕を組んで考え込んでしまった。
 許可を求めた者の正体も 気にしていないようだった。
 もう少し しっかりしてもらえないものだろうかと、 左右衛は そっと溜息をついた。

 日暮れが近い。
 これから薬草園に確かめに行っても 夜になってしまう。
 明日さっそく見に行こう。
 しかし、 天狗苺が無事に薬草園で育ってくれる事を祈るだけでは 不安が残る。
 左右衛は、 せめて後一年は延期するよう 交渉出来ないものかと思案し、
 典薬頭の屋敷を辞した。



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