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薬種狩り 三の4

 その子は 何が起こっているのかを理解していなかった。

 父親の駄狗と ずっと一緒に旅をしてきた。
 母親の事は覚えていないが、 ちっとも寂しいと思った事は無かった。
 駄狗は どんな時も頼もしい。
 一歩足を滑らせれば 命を落としかねない千尋せんじんの谷を渡る時も、
 足音も無く忍び寄り、 野性の牙をむく獣と対峙たいじした時も、
 駄狗が居れば 怖くなかった。
 いつだって 冷静沈着で 余裕があるように見えた。

 その駄狗が 顔色を変えたのを見たのは 初めてだ。
 なすすべもなくうろたえた。

 ハッと気が付いた時には、
 左右衛が 最低限の身支度で あわただしく出かけようとしている。
 その子にかまう人間は 誰も居ない。
 一人放っておかれていた。

 急いで駄狗の後を追って 店を飛び出してはみたが、 もう姿が見えない。
 焦って辺りを駆けまわり、 ふと、 さきほどのやりとりを思い出す。
 そうだ、 天狗森だ。
 天狗森に行ったに違いない。

 通りすがりの人を捕まえて 天狗森の在り処をたずね、 後を追った。
 ほどなく森が見えたが、 さすがに広そうだ。
 伐採されている場所を必死に探した。

 都の郊外、 南南東に位置する辺りに 荒々しく木々が倒されているのを見つけた。
 森の奥に向かって 道のようにひらかれている。
 そこをたどった。

 天狗森は 雑木が混生する森である。
 草木の種類は豊富にあるものの、
 古くからある森とはいえ、 大木は多くない。
 伐り拓くのは簡単そうだ。
 それでも 人知れず何日も前から 伐採は行われていたのだろう。
 幅は広くはないが、 長さは森の奥深くにまで達しているようだった。

 これまで 駄狗と共に各地の険しい山奥や 人間をこばむような深い森を数多く通ってきた。
 それらに比べれば、 天狗森は 一見あまりに普通で 何の変哲もない森にしか思えない。
 しかも 都から近すぎる。
 いつ 邪魔にされて開拓されても いっこうに不思議はない。
 むしろ 今まで手付かずで残っていた方が 不思議なほどだ。
 何故 あれほどまでに駄狗が気色ばんだのか、 まるで理解できなかった。

 本当に 此処で間違いは無いのだろうか と不安に駆られ始めた時、
 奥の方から 聞き馴染(なじ)んだ声が叫ぶのが聞こえた。

「やめろーっ!」

 その声をきっかけにして、 激しい物音と怒号が続いた。
「下郎、 失せろ」
「お上に逆らうのか」
「うわーっ、 何をする!  邪魔立てすると容赦しないぞ」

 震えそうになる膝に力を入れ、 嫌な予感を振り払うように 先を急いだ。

 だが、 天狗森の奥までたどり着いてみれば、
 そこには 良くない事が起きていた。



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