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薬種狩り 三の2

「先に送った荷は 届いたか」
 駄狗の口からは、 返事の代わりに ぶっきらぼうな問いかけが出る。

「ああ、 届いた、 届いた。 あれは良い。 上物だ」
 左右衛は にこにことご機嫌な顔を見せた。
 同じ薬種でも、 おのずから質の良し悪しはある。
 送られた荷は 草楽堂のお眼鏡にかなう物だったらしい。

 草楽堂の評判を支えるもう一つの重要な役目を この駄狗が担(にな)っていた。
 薬種と言えば、 草かんむりが示すように 薬草が主流だが、
 動物性の物や 鉱物なども利用される。
 駄狗は 年がら年中各地を歩き回り、
 上質な薬種や それまであまり知られていなかった薬を見つけ出しては、
 持ち込んでくる事がある。

 だが、 それよりも大きいのは、
 採取が難しい貴重な薬種を手に入れる 名人なのだ。
 人間が足を踏み入れることが困難な 危険極まりない場所にも出かけ、
 めったに手に入らない物を採って来る。
 希少価値が高いから 当然高値で取引され、 草楽堂の儲けは大きい。

 希少だから 薬効が高いとは一概に言えないのだが、
 高価な薬というだけで たちまち効いてしまう事がままある。
 うっかりその気になった挙句、 本当に治ってしまうのだ。
 人間という生き物の 不思議なところだ。
 効いていないと分かれば、 その患者に続けて勧めないのは 良心的と言えるだろう。

 しかしながら、高価な薬の儲けが、
 草楽堂の信用を築きあげる 大きな支えになっている事は確かだ。
 大きな儲けがあるから 良心的な商いが続けていける。
 そうして それが信用に結び付く。
 良い流れができているのだ。

 駄狗の後ろから 大荷物を背負って現れた子を見て、
 左右衛は 垂れ下がった目を しばらく見開いた後、 糸のように細めた。
「おや、 いっちゃんかい。 大きくなったねえ。
 ささっ、 そこに荷を下ろしなさい。 重いだろう」
 いっちゃんと呼ばれた子は、 軽く頭だけを下げて 挨拶代りにすると、
 言われたとおり、 土間から続く式台に 荷物をおろして解き始めた。

「わざわざ直に持ってくる所を見ると、
 面白いものを見つけたんだね」
 左右衛は 丸い膝をずいと乗り出した。

 上がりかまちに腰を下ろした駄狗は、
 解いた荷を丁寧に種類別に分けている子に ちらりと視線を走らせ、
 戸惑いを含んだような 歯切れの悪さで、 おもむろに口を開いた。
「うーん、 まあ、 使えるかどうか、 見込みは五分だ。
 それよりも、 そろそろ こいつに都の風を当ててやろうかと思ってね」

 左右衛は 無言で丸い頭だけを、 こくこくとせわしなくうなづかせ、
 黙々と荷を解いている子を眺めた。

 旅の空が焼いたのか、 肌はすっかり小麦色に染まり、
 駄狗と同じように 散切(ざんぎ)りになっている短い髪は、
 街道の土埃をかぶって ボサボサだが、
 良く見ると きりりと引き締まった 可愛らしい顔立ちをしている。

「そうだね。 駄狗さんも たまにはゆっくり骨休めをするといい。
 そろそろ四十に手が届く年じゃなかったかい。
 そうだ、 何処から話を聞き込んだのやら、
 駄狗さんみたいな薬種狩りになりたいという 活きの良い若い者が居るんだが、
 良かったら引き合わせよう。
 薬種狩りとは 上手い事を言うもんだね。
 見込みがあるようなら 仕込んでやっちゃくれないか。
 もう十分稼いだだろうから、 後釜ができれば、 いっちゃんと一緒にのんびり暮せば良い。
 及ばずながら 暮らし向きについちゃあ、 あたしも手を貸すよ」

「へっ、 後釜ねえ。 あんまり人に勧められる仕事じゃないな。
 それはともかく、
 俺は アレを仕留めるまでは 隠居するつもりは無いよ」
 駄狗は、 いつもの口癖を言い添えた。



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